日脚伸ぶ

 寒気が緩むと日脚が伸びてきたぶん春めいてきたなと思う。母の祥月命日なので墓参りにでかけた。土手を散歩する人や農作業をする人を見かけたしカラスの水浴びも見かけた。猫が四匹もおいかっけこ。恋の駆け引きが始まったらしい。人も自然も僅かな大気の変化に敏感だ。

セザンヌの山 空の道」 結城信一
「招魂の賦」 中谷孝雄著
どちらも図書館で借りてきた。講談社文芸文庫に入っていたのだが、二人とも知らない作家。結城氏は第三の新人の一人らしい。収録の一つ「鶴の書」は幼い妻と子どもを空襲で死なせる話で心に沁みる。並べて暗い作風。繰り返し「死」の影がちらつき全編読み通すことが出来ず挫折。
 もう一方の中谷氏。梶井基次郎らと雑誌「青空」を創刊した一人。表題になった作品と「抱影」は、青春を共にした文学者仲間の死を看取りつつそれぞれとの交流を回顧する話。三好達治や外山繁、亀井勝一郎、淀野隆三氏などが実名で語られる。
「外村よ、そして梶井よ、こうしておれ達は出発したのだ。私は感傷に沈みたくなかった。本を閉じ、眼鏡を外した。涙が頬にあふれてきた。」
全ての仲間を見送った著者が、古写真を前に呟く言葉である。
 読み応えのある二作品であった。




     日脚伸ぶ港に近き子の新居




招魂の賦 (講談社文芸文庫)

招魂の賦 (講談社文芸文庫)