木枯

「語りかける花」  志村 ふくみ著

 書評や自著で源一郎さんや若松英輔さんさんが高い評価をしておられたので手にした一冊。染織家で人間国宝、その方面の高名は周知のとおり。以前「桜の幹が桜色をだす」というような文章を読んだこともある。

 それにしても色彩に溢れた華麗な文章である。一字一句が吟味された言葉で織られたような文章で、読み飛ばすということが出来ない。自分史のなかで出会いのあった人々、染織家を目指したきっかけ、様々な色彩を生み出してくれる自然への畏敬の念、いずれも謙虚な姿勢の中に凛とした厳しさを秘めて恂恂とした語りぶりである。

ある日、ほとほとと扉をたたいて、白い訪問者がおとずれる。その時、私達は扉を開き、快くその訪問者を招じ入れなければならない。 誰もその訪問者をこばむことはできない。老とはそんなものである。・・・・・・・私はこの友と二人でお茶を飲み、羹(あつもの)をじっくりとおいしく煮込み、時の熟する音をこころよく聴き、時には共に旅に出ることもあるだろう。若い時の尖った神経がまるくなって、明け方の胸の痛みも消え、美しいものの近づいて来る時の鈴の音がきこえるようになるのも、この友と深い交わりを結ぶようになってからのことになるだろう。もし、第五の季節があるならば、めぐり合えるかも知れない。

 ひときわ心に残った一節である。

 

 

 昨日は二十四節気の「大雪」。本格的な冬の到来である。この辺りはまだ雪は見ないが一歩奥はもう積雪の便り。

 

 

 

 

 

     木枯やみんなさらつて空広し

 

 

 

 

語りかける花 (ちくま文庫)

語りかける花 (ちくま文庫)