ちゃんちゃんこ

「日本の『アジール』を訪ねて」  筒井 功著

 「アジール」という言葉を知ったのは網野さんの本であったと思うが、むろんそれは中世の話であった。この本はそのアジールが二十世紀の半ごろまで存在し続けていたという事実をレポートしたものである。

 「アジール」とは何か。本来ヨーロッパの言葉であるこの言葉には日本語として適切な翻訳語がないという。強いて言えば、「何らかの形で国家権力や法律制度の枠外にある地域」ということで無籍・非定住の人々の住むところをいうらしい。無籍・非定住の人々とは、粗末な小屋や洞窟・テント掛けに暮らし漂泊を常としていた人々で、なりわいとして細工系と川漁系があるという。細工は多くが箕づくりでそれゆえ「ミナオシ」などという蔑称で呼ばれた。聞いたことのある「サンカ」というのも蔑称のひとつで、中世の「坂の下者」が変化したものでないかと筒井さんは考察している。(筒井さんは三角寛のサンカ考には批判的である)単なる乞食集団と違ったのは彼らがれっきとした職能人であったことで、その箕などは外から加わったものが真似られるものではなかったという。しかし籍を持たず定住せず文字も知らずというので差別され続けたようだ。

 いずれにしても、こういう差別をされた人々がまだ半世紀前までこの国に存在していた事実が非常に不思議で驚かされた。この前読んだ井上ひさしさんの「新遠野物語」は洞窟に住む老人が語り部になる話だったが、この本を読めばその設定が全く架空ではないかもしれないと思ったことだ。

 

 掲載句は以前老人ホームを慰問した折りの句。

 

 

 

 

     男手の針目の歪むちやんちやんこ