小春日

「北斗の人」 司馬 遼太郎著

 家の古本屋に出す予定のダンボール箱の中から拾い出してくる。久しぶりの司馬さんの小説でかなり面白かった。「北斗の人」とは北辰一刀流をあみだした幕末の実在の人物、千葉周作のことである。剣術を合理的精神で追求し「近代的な体育力学の場で新しい体系をひらいた人物」だという。つまり今の剣道の装備も鍛錬の方法もすべてこの人から始まったのだそうだ。その周作が神田お玉ヶ池に道場を開くまでのいわばこれは青春物語である。

 奥州のかなり貧しい郷士とも百姓ともつかぬ家の生まれだったが、子供の頃から俊敏で千匹くらいの蜂を棒きれ一本で退治してしまったという。この才に感服した村の庄屋の支援で江戸に出るのだが貧乏も貧乏、なかなか思うように剣術の修行もできぬ有様。しかしそこは天賦の才、紆余曲折を経ながら並ぶものもない天下の大武芸者になるのである。司馬さんの惚れ込む合理的で明快、爽やかで前向きな人物である。何となく坂本龍馬にも通じる人間性を感じたのだが、龍馬は周作の弟(定吉)の道場に通い、その娘のさなさんは龍馬を慕って未婚で通したのは有名だ。周作の道場に通った人物としては清河八郎などがいるらしいが当方としては「赤胴鈴之助」。かなり好きな漫画だったから歌なども覚えている懐かしい漫画の主人公だ。多分ラジオで聞いていたような気がするが、その番組の周作の娘が吉永小百合さんだったのは後になって知った。吉永さんは同時代なので彼女も小学生だったにちがいない。

 何だか昔話になってしまったが十分楽しんだからもう古本屋行きとしようか。

 

 

 

 

     小春日やゆつくりと押す乳母車

 

 

 

 

北斗の人 (講談社文庫)

北斗の人 (講談社文庫)