秋晴

「犬心」 伊藤 比呂美著

 帯紙に「これはいのちのものがたり」とある。タケというシェパード犬の老いて死ぬ話である。タケは「散歩と食べ物には人間離れした熱意をもっているだけで、あとは、人と暮らすのとあんまりかわらない。」という伊藤さんの愛犬。十三年生き、すっかり老いさらばえ、大好きだった散歩もやっとのことになり、糞尿も垂れ流し、そして死んでいく話。伊藤さんは傍の「安楽死」を勧める言葉に耳を貸さず、黙々と糞尿の世話をして死に近づいていくタケの面倒をみた。伊藤さんにとってはタケの姿は同じように老いて死に近づいていくお父さんの姿と重なっていた。実際タケの世話をしつつお父さんの介護も同時進行だったようで日本との行き来も含めて並の心労ではなかったはずだ。それでも彼女はこの本を書くことで、やり遂げた。凄いものだ。お父さんは先に亡くなりやがてタケも天寿を全うした。

 ペットロスの辛さはものすごくわかる。我が家ももう十年近くなるのに姿を消した猫を思い出す。人と違うが「犬心」というのも「猫心」というのもあるような気がする。伊藤さんはタケ以外の愛犬ニコに加えて晩年のお父さんに寄り添ったルイもアメリカに連れ帰り、二匹の「犬心」を大事にしながら暮らしておられるようだ。悲しかったがいい話だった。

 

 

 

 

     秋晴の駅より下る港町

 

 

 

 

犬心

犬心