名月

 若狭への旅  一日目

 驚いたことには、若狭には132のお寺があると言う。今、「若狭の秘仏 特別公開」と名付けてそのうちの多くのお寺の仏様が公開されているが、今回拝観したのは古刹と言われる七ケ寺。本当は八ケ寺あるのだが予約のいるお寺があり、訪問したのは七ケ寺。明通寺・神宮寺・萬徳寺・国分寺・羽賀寺・円照寺・妙楽寺である。特別公開中の休日にもかかわらずいずれの寺も拝観者は少なく森閑とした有り様。余人を交えず仏様と対峙できる静けさだ。仏様はいずれも平安時代中期の作が多く、重文に指定されている。薬師如来をご本尊とするお寺が多いのもなにか時代的な背景があるのだろうか。その他、羽賀寺の十一面観音菩薩は彩色の残る艶やかなお姿。元正天皇に似せたものといわれるが女性的で美しい。円照寺の大日如来は丈六の大きさ。胎蔵界の印相(法界定印)を初めて知った。妙楽寺は二十四面の千手観音と珍しい。明通寺は本堂と三重塔が国宝で、今は塔の内陣も公開中。神宮寺は東大寺へお水送りのお寺、萬徳寺には築山式の庭園、国分寺には三メートルもの木造釈迦如来とどこもどこも印象深い。
 風が冷たく、どんよりした曇り空で少しだけ雨もぱらついたが、またとない寺めぐり。お堂の扉を自分で開けて拝観、又閉めてお暇するなどというのは京・奈良のお寺などでは考えられないことだと思う。掲載句は妙楽寺境内の句碑より。




     名月や北国日和定めなき     芭 蕉


 

神宮寺参道


萬徳寺庭園