秋深し

 「落陽」 朝井まかて
 新国立競技場の建設に絡んで明治神宮の森が話題になったのは去年であったか。あの壮大な森が百年近い年月をかけた「人工の森」だと知ったのもそのころであったように思う。人工の森の出発点がどんなものであったか、その取り組みに人々を駆り立てたものは何であったか,その関心に応えようとしたのがこの本である。もちろんこれはフィクションであるが、当時の林学者たちが東京の植生と地質を研究して、どうすれば百年後百五十年後に立派な杜として残せるのか、時には反対派を説得しつつ英知を傾けて実行したことは事実であろう。また、神宮造営に向かわせた人々の明治天皇への熱い思いも真実であろう。
 これはネットで読んだことだが、「百年近くたった今は主木が自ら世代交代を繰り返す天然林相に達しつつある」という。人の手による立派な自然林が出来たということに違いない。
 傍観者(新聞記者)の視点で書かれているので少し物足りないところもあったが、なかなか面白い本であった。



     新道を外れたる町秋深し



落陽

落陽