夏休み

「チェリー・イングラムー日本の桜を救ったイギリス人」阿部菜穂子著
 桜は日本人ならだれでもその開花に胸を躍らせる花であり、国花とするに異存のない花でもある。しかし一般的に私達が思い描くのは華やかに咲き、一斉に散るソメイヨシノでそれ以外の桜についてはあまりにも知らない。実は日本には4000種もの里桜があるそうだ。その多様な美しさに魅了され、桜守りになったイギリス人がいた。彼は明治以後安易にソメイヨシノばかりが植樹されることを憂い、自分の庭園に多様な桜の木を植え、遂には日本で絶滅した品種「太白」を里帰りさせることにも貢献したというのだ。この本にはイングラムのこと以外にも国粋主義と結び付けられた「桜」の悲劇、日本軍が東アジアのイギリス領で行った残虐な行為と「桜」でのお詫び、戦争に踏みにじられた日本の「桜」と戦後の復活への歩みなど「桜」にまつわる様々な出来事が書かれている。
 全編を貫く桜の多様性への賛歌は、読むほどに来る春にはぜひ様々な桜を愛でてみたいものだと思わせた。


     肋木の影くつきりと夏休み


チェリー・イングラム――日本の桜を救ったイギリス人

チェリー・イングラム――日本の桜を救ったイギリス人