明け易し

 「日本近代随筆選 3思い出の扉」
 先の二巻に続き三冊目である。思い出というコンセプトで、人や動物、酒、食べ物などへの思いを書いた三十八編。やはり人を語ったものが心に残る。対象は大抵は亡き人で、筆を通して生前の交情がありありとわかり、その哀しみも惻々と伝わる。例えば、漱石の「子規の絵」菊池寛の「芥川の事ども」飯田蛇笏の「雲間随筆ー猟夫粂吉を想う」など。亡き父母を偲ぶ何編かも忘れがたい。姉弟で母を偲ぶ話があったが、そういえば今月は父の祥月命日だ。姉が施設に入ってからは父母の思い出話をすることもすっかりなくなったなと思う。父母の話をしているといつも説教じみてくる姉の話は閉口だったが、一人で思い出話はできないなあ。


     ちちははのこと語りゐて明け易し