水馬

 伊那谷の旅 二日目
 晴れは望んでいたのだが、連日の真夏日。のんびりと町歩きを楽しむつもりが、とてもでないという暑さ。車で廻るのが中心となる。
 まず飯田考古資料館。開善寺という古刹に隣接。開善寺の重文の山門を拝見してから向かう。この門は室町時代の建立ということで、簡素なうえにも重厚で風格がある。さて、資料館。訪問者もあまりないような森閑とした展示室で興味深かったのは「人物埴輪を乗せた舟型埴輪」海から遠いこの地での船の埴輪は葬送思想を表したものか、との説明。みずらを結い剣を差した人物の呆けたように開けた口が印象的だ。後で知ったことだが、そのあたりは5世紀半ば頃から科野の中心で非常に古墳の多い地域のようだ。馬の供給地として大和政権と太い結びつきがあったという。「今度は古墳を見に来てください」と言われたのも、そういうことかも知れない。


 
 次に向かったのは旧小笠原家書院と小笠原資料館。安西水丸さん「必見」とのこと。このあたりを治めた小笠原家の城郭遺跡だが今は重文の書院しか残ってはいない。案内人の方が丁寧に詳しく説明してくださる。併設されている資料館がすごい。建築家ユニットSANAAの設計である。なんでも妹島和世が小笠原家の縁の人だというのだ。広場を挟んで新旧対照的な建物が並び建つのが面白い。



評判の蕎麦屋で昼食後「九輪草」の自生地へ。ここでとんでもない大失敗。湿地へ足を滑らせてドスン、どろんこになる。嗤うに嗤えずという情けなさ。身軽に上れると思ったのが失敗のもと。「「いつまでも若いと思うなよ」(今、読んでいる本の題名)と思い知らされた感じ。どこにでもある「しまむら」で着替えを買ってなんとかなるが、カメラは駄目になってショック。
 割り切れぬ気持ちのまま最後に飯田市中心部へ。掘氏二万石の城跡。往時を偲ぶものは「赤門」ぐらい。城跡に美術館・柳田国男館・日夏耿之介記念館・樹齢450年の桜の古木など。美術館には菱田春草の絵画もあり文化人輩出の町の面目躍如。飯田市の人口は10万弱と聞いたが歴史があるだけに文化的な厚みを感じた。


     本流のあること知らず水馬