読書

寒波来る

『ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー 2』 ブレイディみかこ著 黄色の同名本の続編である。前編ほど話題になっていなかったか、パート2が出たのを知らなかった。 この本では当然ながら「ぼく」も大きくなって12歳から13歳ぐらいと思われる。イ…

底冷え

『土を喰ふ日々 わが精進十二ヶ月』 水上 勉著 今、沢田研二主演で映画化されているというので、手にとってみた。映画はどんなものか知らぬが、なかなか滋味あふれた一冊だ。文章が味わい深いというのもさりながら、紹介される食べ物が食欲をそそるのだ。 若…

日脚伸ぶ

『オホーツク街道 街道をゆく38』 司馬 遼太郎著 歴史書で森浩一さんの文章を拾い読みしていたら、司馬さんの話が出てきた。司馬さんの『街道をゆく』シリーズに触れて、最晩年の『オホーツク街道』が膨大な『街道をゆく』シリーズの中でも最高傑作ではな…

寒九

『老いの身じたく』 幸田文著 青木奈緒編 家事の途中、喉が渇いたからとごくごく水を飲んで、ああ美味しいとおもったのは久しぶり。今日はやや暖かく、水の冷たさが気にならぬ。飲んでいるうちに「寒九の雨」という言葉を思い出し、カレンダーで確かめれば、…

『失踪願望 コロナふらふら格闘編』 椎名 誠著 ワイルドでマッチョのイメージがあった椎名さんも、お年を召されたなあというのが一番。連れ合いと同じ78歳という。テレビか何かでお顔を見て、失礼ながら驚いた。コロナに感染して酷く重篤だったり、圧迫骨…

裸木

『ウクライナ戦争日記』 いち早く戦時下のウクライナからの報告。報道でも耳にするキーウ・ハルキウ・マリウポリ・ヘルソンなどの都市に生きる24人の声である。 突然の爆音で始まった戦争。一瞬にして崩れ落ちた日常。不安で眠られぬ夜。恐怖の脱出。私に…

初春

明けましておめでとうございます。本年も埒もない覚書を続けます。よろしかったらご訪問ください。 『マイホーム山谷』 末並 俊司著 さて、上記の本は「今年の三冊」にも挙げていた人がいた本で、昨年末から読み継いでいたもの。「山谷」でホスピスを立ち上…

『年寄は本気だ』 養老 孟司・池田 清彦著 今年初の本格的降雪だ。報道では「岐阜市は10センチの積雪」。わが家辺りも概ねその程度と思われる。本格的な降りだったから、昔のように仕事に出かけなければならないのなら大変だ。こういう日は、無職の老人で…

着ぶくれ

『ヘルシンキ生活の練習』 朴 沙羅著 ずいぶん前に新聞の読書欄で気になり、メモをしておいたものだ。県の図書館で見つけて借りてきてもらう。 多少困難があっても、積極的によその国にでていこうという若い人の話を読むのは楽しい。この本の朴さんも二人の…

枯葉

『ソ連兵に差し出された娘たち』 平井 美帆著 2021年開高健ノンフィクション賞受賞の重苦しい実話である。表題からおよその内容は想像が付くと思われるが、表紙見返しの惹句を引用しよう。 1945年の夏ー日本の敗戦は満州開拓団にとって、地獄の日々…

開戦日

『イリノイ遠景近景』 藤本 和子著 今月に入っていっぺんに寒くなり、すっかり縮こまった暮らしになってしまった。半日はそれなりにすべきこともあって動き廻るのだが、午後はほとんど固まっている。テレビを見る習慣がないので、大抵は読書なのだが、これと…

十二月

『レールの向こう』 大城 立裕著 『老年文学傑作選』 駒田 信二編 どちらも私小説風の老人文学である。したがって読後もいっこうに意気があがらぬ。上記は過日読んだ『あなた』と同じ作者。川端賞の表題作は、脳梗塞を患った妻に付きそう日々と亡き友への気…

一葉忌

『長いお別れ』 中島 京子著 この本は、認知症の父を廻る家族模様を描いた物語である。読んで初めて知ったことだが、認知症の人の最期を看取ることは「長いお別れ」と言うらしい。少しずつ記憶を失くし、ゆっくりと遠ざかっていくからだとあったが、まさに言…

冬田道

『絹の家 シャーロック・ホームズ』 アンソニー・ホロヴィッツ著 駒月雅子訳 働き過ぎて(?)首から肩を痛め、初めて鍼灸院にかかっている。先週の土曜日に冬に向けての庭の片付けに奮闘しすぎたらしい。全く年甲斐もなく無理をすると、こんな始末だ。日曜…

小六月

『あなた』 大城 立裕著 表題作他自伝的五つの短編。亡き妻に語りかける表題作がいい。筆者は沖縄県出身の初めての芥川賞作家。すでに一昨年九十五歳で逝去された。この作品は最晩年の作品で、作者自身の妻への想いを語ったものだ。 二人が共に乗り越えてき…

秋深む

『その裁きは死』 アンソニー・ホロヴィッツ著 山田 蘭訳 気持ちのいい陽気が続く。半日は家事で奮闘するのだが、午後は陽だまりの安楽椅子でミステリー三昧。「バアサンだなあ」と家人に言われる。何とでも言ってくれい。これは至福の時間でござんす。 さて…

秋雨

『メインテーマは殺人』アンソニー・ホロヴィッツ著 山田蘭訳 久しぶりに終日雨。気温が上がらずずっと暖房を入れている。暖房の部屋で手にするのは、久しぶりにホロヴィッツだ。朝から読みはじめてまだ終章にいたらずだが、面白い。既読のホロヴィッツ作品…

どんぐり

『ミシンと金魚』 永井 みみ著 カケイばあさんは、認知症の気がある。聞かれなくてものべつまくなし喋り続ける。この本はカケイばあさんの独白だ。不幸な生い立ちから、ヤクザな兄貴のこと、突然出ていった亭主のことや先妻の子どもと自分の子どもを抱えてミ…

『猫だまし』 ハルノ 宵子著 おや、こんな本がと図書館の書棚で見つけてきた本である。ハルノ宵子さん、言わずとしれた吉本さんの娘さん、ばななさんのお姉さんである。漫画家でいらっしゃるという他、予備知識なし。猫の挿絵も面白いが、お話も実に面白い一…

秋の雨

『寂しい生活』 稲垣 えみ子著 昨日図書館で、これという目当てもなく書棚を見回していたら、おやおや「稲垣さん」ではないかと、借りてきた本。例の有名な(?)究極の省エネ生活実施の顛末記である。 東日本大震災の原発事故をきっかけに、底なしにエネル…

敬老日

『猫に教わる』 南木 佳士著 多分、最新のエッセイ集である。文体に惹かれるものがあって、エッセイがでれば借りて読んできたが、小説は読んだ覚えがない。そういうあまりいい読者ではないのだから、とやかく言えたものではないが、話はいつも同じような話に…

つくつくし

『新・木綿以前のこと』 永原 慶二著 昔の人は何を着てたんだろう。そう思ったのは、少し前に読んだ上野誠さんの『万葉人の奈良』で、「調」の麻織物に苦労する東国の女たちの歌を読んだからだ。ともかく麻(苧麻)の茎から繊維を取り出し、糸により、織り上…

休暇果つ

『仰天●俳句噺』 夢枕 獏著 表題に「俳句」とあったので図書館の新刊コーナーから借りてくる。著者の作品は手に取ったこともなかったが、いやいや実に面白かった。文脈などというものがあるのかどうか、(よく読めばあるのですが)噺はあっちに跳びこっちに…

露けし

『日本の歴史7 鎌倉幕府』 石井 進著 夕べは酷い雨だった。八月としては初めて、一時間78ミリという豪雨と雷で、「緊急避難警報」がけたたましく鳴った。これは隣の岐阜市からの情報で、わが家の隣の川は岐阜市との境である。見ればあと10センチほどで…

秋の雨

『屍の街』 大田 洋子著 大田洋子という人は、戦前ある程度の評価を受けた作家であったらしいが、全く知らなかった。この本も、新聞の読書欄の斎藤美奈子さんの紹介で、初めて知った。 著者39歳、広島市内で被爆。当事者だけに凄惨で残酷な被爆体験記録で…

敗戦日

『街道をゆく四十二 三浦半島』 司馬 遼太郎著 BSで「新 街道をゆく 三浦半島」というのを見た。古いシリーズが再放送されていたのは知っていたが、これには「新」が付く。「鎌倉殿の十三人」に合わせた企画かもしれない。「街道をゆく」はどれも昔読んだは…

秋立つ

『古代史おさらい帖』 森 浩一著 森さんが亡くなられてすでに九年になる。調べると、はからずも一昨日が祥月命日だったようだ。森さんも佐原真さんも素人にもわかりやすい言葉で語りかけてくださり、すきな学者さんであった。いずれも故人になってしまわれて…

熱帯夜

『万葉びとの奈良』 上野 誠著 筆者の言葉によれば、この本は「万葉集に、平城京とその時代を語らせる本」である。 飛鳥・藤原京の地からの遷都、初めての中国風の大都に暮らす人々の「みやこのてぶり」という都ぶりの感覚、多くの官人たちの日常、それを支…

草を掻く

『ラスト・ワルツ』 井波 律子著 井波 陵一編 全く同時代の、この中国文学者のことを今まで知らなかった。知っていたからと言ってどうということはないのだが、それでもすでに昨年秋に亡くなったと知れば、残念というか遅れたという気持ちが湧く。 1944…

『すべての月、すべての年』 ルシア・ベルリン著 岸本佐知子訳 『掃除婦ための手引書』につづくルシア・ベルリンの短編集である。訳も前書同様に岸本佐知子さん。 確かに面白いのだが、半分ほどで疲れた。筆者の分身らしき語り手や主人公に何か思い入れがあ…