読書

夏休み

『いまだ人生を語らず』 四方田 犬彦著 『月島物語』以来、著者は私には縁遠い人である。Tからすごい天才だと聞かされていた。何でも高校に入学した年の春休み、三年間の数学を一気に仕上げ、後は何もしなかったというのである。それだけで、数学に振り回さ…

蜥蜴

『作家の老い方』 草思社 小説家、詩人、歌人、俳人、評論家などなど人生の先達たちの「老い」に関する文章を集めたものだ。 心に残った歌がある。 冬茜褪せて澄みゆく水浅黄 老いの寒さは唇(くち)に乗するな 齋藤 史 このアンソロジーのなかで二度も出て…

梅雨深し

『縄文文化と日本人』 佐々木 高明著 その2 「成熟した採集社会」の東日本に比べ、何かと見劣りしていた西日本に、縄文晩期水田稲作農耕が伝来した。初期は畑作物の渡来で、やや遅れて本格的な水田稲作農耕が伝わったらしい。 もともと雑穀やイモ類を主作物…

初蝉

『縄文文化と日本人』 佐々木 高明著 その1 また、縄文である。私には手強い本だが興味深い内容なので、ここで大雑把な紹介を試みてみようと思う。 問題は「日本文化はどのようにして成立したのか」ということである。筆者は「日本文化は単一の稲作文化であ…

梅雨晴間

『口訳 古事記』 町田 康訳 町田康による大阪弁(?)の『古事記』である。面白いのなんのって、破天荒な古事記である。例えば、因幡の白兎とオオクニヌシノミコトのやりとりは 「あいつら、騙して渡ったろ、と思ったんですよ。あいつらアホなんで」 「騙す、…

梔子

『おやじはニーチェ』 高橋 秀実著 認知症は、長生きすれば、だれにも出てくる症状らしい。(80代後半では41・1%、90代では61%)それでいて有効な特効薬もなく、治療法もない。確立された予防方法もないから、なるかならないかは宝クジのようなも…

五月闇

『土偶を読むを読む』 望月 明秀編 『土偶を読む』は去年3月12日、このブログでも取り上げた。土偶を形態的特徴からいくつかの食用植物や貝類のフィギュアと見立てた仮説で、面白かったと書いている。 この本はその仮説に対するアンチテーゼである。「皆…

青梅

『世界は五反田から始まった』 星野 博美著 渾身の力が入ったノンフィクションである。(第49回大佛次郎賞受賞作品)これまでに読んだことがある星野作品は、例えば『島で免許をとる』など、ユーモラスな自伝的作品だった。 が、これはちょっと違う。始ま…

蛇(くちなは)

映画『舟を編む』(2013年制作 石井裕也監督) 三浦しおんの同名小説を映画化したものだ。以前小説を読んでいたので、話の展開はわかっていた。ずいぶん前の読書だから、本と比べてどうのこうのは言えないが、様々の賞を受けた作品らしく、辞書編集者の苦労や…

麦の秋

『夢見る帝国図書館』 中島 京子著 世間離れした雰囲気で、謎めいた過去をもつ「喜和子」さん。どうやら彼女の過去は、帝国図書館と関連があるらしい。図書館を主人公にした話を書いてほしいと、喜和子さんに頼まれていた私。彼女の死をきっかけに、謎に包ま…

南風

『長い物語のためのいくつかの短いお話』 ロジェ・グルニエ著 宮下 志朗訳 以前、山田稔さんの訳で『黒いピエロ』を読んだことがある。まんざらでもなかった印象があったので、Tに回してもらう。 「陽気なペシミスト」を自称するグルニエらしく、明るい話は…

夏パンツ

『じゃむパンの日』 赤染 晶子著 面白かった。よくもまあ、こんなにあることないこと書けましたねぇ。いやあ、あることばかりをないことのように書けましたねぇと、感心すべきかしらん。 「新・蝶倶楽部」でYonda?パンダのシールに強迫されながら、審判を待…

風薫る

『挑発する少女小説』 斎藤 美奈子著 正直、私は少女小説が大好きだった。ここに取り上げられたものの中でも、『若草物語』『赤毛のアン』『あしながおじさん』には特に夢中になった。映画もなんど見ただろう。最近でも「ストーリー・オブ、マイライフ」(若…

花うばら

『じい散歩』 藤野 千夜著 「老い」というのは、当たり前ながら誰にとっても不安な初体験。同年輩の老いざまやら、先輩諸氏の老い方とつい比べてみたり、参考にしてみたくもなるものだ。この話だって、斎藤美奈子殿が「人生の最晩年を明るく生きるシニア小説…

春深し

『風土記博物誌』 三浦 佑之著 現存する『風土記』はすべて写本。不完全なものを入れて五カ国と、後世の書物に引用された逸文が少し。されど「八世紀以前の日本列島のあちこちのすがたを窺い知ることのできる文学記録」であると、三浦さん。 その『風土記』…

遅き日

『猫を棄てる』 村上 春樹著 上手い文体だというので、Tから回してもらう。かかりつけ医の待合室ですらすらと読めた詩のような小冊。 過日読んだのが娘たちが書いた父親なら、これは息子の書く、父親との和解の話。父親から受け取った命の連鎖を確かめるもの…

春の雨

『Nさんの机で』 佐伯 一麦著 作家生活三十年めにしてオーダーメイドで机をこしらえられたという。楢材の堅牢な机らしい。その机に向かい、物にからめながら来し方を振り返ったエッセイ。 世間の不条理にハリネズミのように挑みながら、自分の生き方を模索し…

春うらら

『この父ありて 娘たちの歳月』 梯 久美子著 著名な女流作家たちに、父は何を残したか。彼女たちの筆で書き残された、父親たちの姿を紹介した一冊である。登場するのは、渡辺和子、斎藤史、島尾ミホ、石垣りん、茨木のり子、田辺聖子、辺見じゅん、萩原葉子…

うぐいす

『倭人伝を読みなおす』 森 浩一著 森さん最晩年、渾身の力が入った書である。「八一歳になって倭人伝の問題点を自分なりにまとめられたのは人生の幸運といってよかろう。」と書いておられる。 陳寿の倭人伝は、ほぼ同時代史料で史料的価値は高い。「倭国伝…

紅梅

『語っておきたい古代史』 森 浩一著 読書に気が乗らないということがあり、季節外れで始めた編み物に夢中になったりしている。編み物も根を詰めると倦みてくるから、養老先生ではないが。身体を動かすことが一番と(養老さんは煮詰まったときは身体を使うが…

卒業期

『死の壁』 養老 孟司著 壁シリーズというのは6編もあるらしい。総計660万部突発とうたってあるので、売れに売れているということか。一冊も読んだことがなかったが、Tの古本屋の均一本、積読棚にあったので引き出してくる。あとがきを読むと、このシリ…

春寒し

『日本史を暴く』 磯田 道史著 毎週水曜日、BSPの「英雄たちの選択」を見ている。(もっとも半分くらいは居眠りしているのだが)司会の磯田さんの視点がいいなあと、思うことが多い。そう思う人が多いのか、磯田さんは今や相当の売れっ子らしい。新書も次々に…

梅ふふむ

『嫌われた監督』 鈴木 忠平著 華々しい落合時代をまざまざと思い出した。8年間で4度のリーグ優勝と日本一1度。ファンにとって、ことに忘れられないのは、2007年の日本一。末席ファンでも興奮覚めやらず、勢いに任せて、勝手な優勝記念としてマッサー…

梅開く

『お墓、どうしてます?』 北大路公子著 軽いエッセイである。いつもちっとも読む気がおきない本ばかりの新聞の読書案内にあった。全く意外や意外で、藤田香織さんの紹介である。 お父さんが亡くなって、お墓をどうするかという話である。どうするどうすると…

いぬふぐり

『人物で学ぶ日本古代史』 新古代史の会[編] 奈良の冨雄丸山古墳から楯形銅鏡と蛇行剣が発見された。どちらも過去に例のない大きさらしい。それにも興味しんしんだが、この古墳は4c後半の築造だというではないか。4世紀といえば、当時の権力者すらはっき…

冬深し

『偽りだらけの歴史の闇』 佐藤 洋次郎著 少し寒気が緩んできた気配だが、昨日は寒かった。当地は最高気温が3・3℃、おそらくこの冬二番目の寒さだった。閉じこもって居る日は台所しごとにかぎると、この冬四回目のマーマレイド作り。この前の強風でかなり…

寒波来る

『ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー 2』 ブレイディみかこ著 黄色の同名本の続編である。前編ほど話題になっていなかったか、パート2が出たのを知らなかった。 この本では当然ながら「ぼく」も大きくなって12歳から13歳ぐらいと思われる。イ…

底冷え

『土を喰ふ日々 わが精進十二ヶ月』 水上 勉著 今、沢田研二主演で映画化されているというので、手にとってみた。映画はどんなものか知らぬが、なかなか滋味あふれた一冊だ。文章が味わい深いというのもさりながら、紹介される食べ物が食欲をそそるのだ。 若…

日脚伸ぶ

『オホーツク街道 街道をゆく38』 司馬 遼太郎著 歴史書で森浩一さんの文章を拾い読みしていたら、司馬さんの話が出てきた。司馬さんの『街道をゆく』シリーズに触れて、最晩年の『オホーツク街道』が膨大な『街道をゆく』シリーズの中でも最高傑作ではな…

寒九

『老いの身じたく』 幸田文著 青木奈緒編 家事の途中、喉が渇いたからとごくごく水を飲んで、ああ美味しいとおもったのは久しぶり。今日はやや暖かく、水の冷たさが気にならぬ。飲んでいるうちに「寒九の雨」という言葉を思い出し、カレンダーで確かめれば、…