読書

名月

『語る兜太』 金子 兜太・黒田杏子聞き手 分厚い本である。独白部分は全編黒田さんが聞き手のようだが、聞き手を意識させないひとり語りの形式に徹している。 副題に「わが俳句人生」とあるようにその人生が産土の秩父の記憶から始まり、俳句を始めた学生時…

秋の蝶

『レシピを見ないで作れるようになりましょう』 有元 葉子著 新聞の広告によれば今話題の料理本らしい。すでに五十年以上も料理に携わっている身だが相変わらずレシピ本は頼りにしている。自己流で何となく物足りないという思いの時もある。おさらいのつもり…

敬老日

『小屋を燃す』 南木 佳士著 弱さを曝け出すようなこの人の自嘲的文体がきらいではない。いままでも主にエッセイだがかなり読んだ。今回はエッセイというよりは小説なのだろうが基本的に私小説だから話は筆者自身と深く結びついているはずだ。読み出したら今…

昼の虫

『鴎外の子供たち』 森 類著 森類氏は鴎外の末の子である。姉の杏奴さんの本を読んだ後、この本をTの本棚に見つけて読むことにした。書きだしにいきなり出版に絡む姉たちとの確執事情が語られていて、随分いわくつきの本であることを知った。姉たちが激怒し…

秋の声

『泣きかたをわすれていた』 落合 恵子著 落合さんの講演を聞いたことはあるがまとまった本を読むのは初めてである。だが彼女が同年の生まれであり、またその誕生に係る事情、彼女が長い間母親の介護をされていたこと、子どもの本屋さんの活動に力を入れてお…

『八十二歳のガールフレンド』 山田 稔著 県の図書館で見つけてきた少し古いが珠玉のような一冊。 抽斗の隅に見つけた古い便りや、心にひかかっていた一編の詩や、新聞の訃報欄から思い出の糸をたぐるように紡ぎだされるいくつかの話。思い出される人はどの…

木の実

『縄文人からの伝言』 岡村 道雄著 東京博物館での「縄文展」が見たい。大阪や京都ならいいが東京まではちょっとある。体力的にもまだ自信がもてない。そんなこんなでせめてテレビの関連番組を見たり、こういう本を読んだりというところである。 縄文時代は…

台風

『俳句、はじめました 吟行修業の巻』 岸本 葉子著 岸本さんの俳句本を読むのはこれが二冊目である。先に読んだ本に先行する一冊らしい。全編吟行での句作りの話。吟行は当方も苦手ゆえ、いい知恵でも授からないかと思って読む。苦労話がほとんどでこれとい…

花野

この二三日冷房のいらない日々が続いて気分はすっかり秋めいてきた。あれほど煩かったクマゼミたちが鳴りを潜めて昼間も虫の声しきり。キチキチキチとけたたましい鵙の鳴き声で昼寝の夢を破られて、「おや初鳴き?」と隣のH殿に声をかける。このまま秋に一直…

敗戦日

お盆でも病院の診察はいつもどおりということで先日の検査結果を聞きに行く。CTで見えるかぎりはきれいになくなっているということで、まずは悪い結果ではないと言われる。しかし、さらに詳細な検査をしないことには確かなことはわからないと、来週には内視…

八月

『流れる星は生きている』 藤原 てい著 毎年この時期は戦争文学を読むことにしている。このふやけきった時代に、せめてあの戦争の悲惨さを忘れないためと亡くなった人々を悼んでのつもりである。 今年はTの本棚にあったこの本にした。戦後の話題の本であった…

熱帯夜

『綾蝶の記』 石牟礼 道子著 逝去後のエッセイ集である。三部に分かれていて、変わらぬ水俣病に関しての発言や自分史についての講演・インタビューや対談・書評も含む。私なぞにはとても掴みきれぬ人であるが、石牟礼文学に脈打っているものは言葉以前への感…

炎昼

『ラブという薬』 いとうせいこう・星野概念著 トシヨリでスマホも持たない当方は、SNSの世界を渉猟するということはまずない。ところが今やや若い人にとってはSNSの世界は片時も切り離せぬものらしい。いとうさんによればスマホを瞬時でも忘れるというアプ…

昼寝

二日ほど前から夏の花粉症が酷い。くしゃみと鼻炎で真夏なのにティシュが手放せない。体調が悪かった間は花粉症を忘れていたが、少し体力が回復してきたせいか、またぞろ免疫反応が出だした。これを喜んでいいのかどうか複雑な気持ちだ。今朝はあまり酷くて…

夏深し

『晩年の父』 小堀 杏奴著 「アンヌコ、ヌコヌコや」とか「パッパコポンチコや」とは時に鴎外が子どもたちを呼んだ愛称である。いかにも可愛くてたまらないという気持ちだ。我が家も子どもたちが幼かった頃は可愛い動物名を冠して呼んだものであるから、この…

白靴

『朽葉色のショール』 小堀 杏奴著 著者は言わずと知れた鴎外の次女である。今まで何か読んだような気もするが記憶にない。姉の茉莉とは異なり堅実な家庭を築いた彼女らしい抑制のきいた文章である。生き方というか人生観に触れたものが多い。父鴎外の思い出…

蝉時雨

『私だけの仏教』 玄侑 宗久著 副題に「あなただけの仏教入門」とある。玄侑さんの豊富な知識を駆使して解りやすく解説された実践的仏教入門書である。そして、読後、自ら「仏教徒」と思い何の疑問も抱かなかった私は、仏教とはこういうものであったかと初め…

七月

『晩春の旅 山の宿』 井伏 鱒二著 先日読んだ岡武さんご推薦の随筆集である。「晩春の旅 山の宿 広島風土記 取材旅行 釣り宿」と五つに分かれている。巻末の「人と作品」は何と飯田龍太先生。井伏さんと龍太先生は膨大な往復書簡もあるくらいだから宜なるか…

百合

『羊と鋼の森』 宮下 奈都著 帯に「史上初!堂々の三冠受賞」とある。どんな本かと興味をもって読んだ。内容はピアノの調律の仕事に魅せられた青年の成長譚ともいうべきものだ。主人公の彼は純粋で今どき珍しいような青年で周りの人々にも愛されている。悩み…

立葵

本日は「夏至」。この時間(午後4時)に至りてやっと長い日の陽射しが差してきた。「夏至」で一句物しようと思ったのだがどうしても出来ず。ならば他人様のをお借りしようと思ったがこれも案外なし。また、来年への課題である。 畑の夏野菜が本格的に採れだ…

植田

『人生散歩術』 岡崎 武志著 「こんなガンバラナイ生き方もある」と題して「脱力系文学者」の人生と作品を俯瞰しようという試み。選ばれたのは井伏鱒二・高田渡・吉田健一・木山捷平・田村隆一・古今亭志ん生・佐野洋子の諸氏。いずれ劣らぬそうそうたる顔ぶ…

梅雨晴間

『静かな雨』 宮下 奈都著 話題の著者の作品である。ベストセラー本はなかなか回ってこないからまずは先行作品をと借りたもの。一人称語りの静かな作品。状況は決して明るくないのに絶望の中から立ち上がってくる救いがいい。筆者の別の作品も読んでみたいと…

時の日

『海に沿うて歩く』 森 まゆみ著 森さんの旅日記である。島・半島・町並み・物語の地に分けて三十一ヶ所。森さんらしい洞察と感想、土地の人々との交流とけっこう楽しく読んだ。出てくる土地の人々は多くは高齢であるから、これらの話も早晩消えていくこの国…

梅雨入

『来ちゃった』 酒井 順子文・ほし よりこ画 最近、とみに根気が続かない。あまり面白くないとなるとちっとも読めない。(ごめんなさい)著者の訪ねた三十七ヶ所の旅報告である。なかにはチベットやアイルランドと海外の旅報告もあり。当方がすでに出かけた…

菖蒲

『枕詞はサッちゃん』 内藤 啓子著 雨間をぬって図書館へ行く。今日も軽い本ばかりを借りてくる。『枕詞はサッちゃん』は昨日の新聞で第66回エッセストクラブ賞を受賞と報道されていた作品。 「サッちゃんはね サチコって いうんだ ほんとはね」の作詞家阪…

氷菓

『女三人のシベリア鉄道』 森 まゆみ著 なかなか読み切れない。厚いうえに薬のせいですぐにうとうとなるせいもある。決して中身がつまらないわけではない。 女三人とは与謝野晶子、中條(宮本)百合子、林芙美子である。何れもシベリア鉄道を経由して欧州を…

若葉寒

『記憶の海辺』 池内 紀著 池内さんの本は折りに触れてよく読んできた。もっとも先生の本業とはほど遠い軽いものばかりではある。どうしてだろうか。ちょっとへそ曲がりのところがいいというのもありますが、(そう言えば『二列目の人生』なんてのもありまし…

新緑

『貘さんがゆく』 茨木 のり子著 良かったからとTが回してくれる。山之内貘さんの詩と人柄についての茨木さんのエッセイ。全編茨木さんの暖かい眼差しと適確な選詩に溢れた好著である。貘さんの詩はよく教科書など載っているミミコの詩か沖縄についてのもの…

夏来る

『親子の時間』 庄野潤三小説撰集 岡崎 武志編 庄野ファンである岡武さんが撰集された庄野ワールドである。最初の一編を除いて後は文庫本未収録のものから選んだとある。久しぶりに庄野ファミリーの暖かさに触れたく、借りて来る。一時かなり読みふけっただ…

『みんな昔はこどもだった』 池内 紀著 池内さんの本だからTが読んでいたのをまわしてもらう。様々な分野で功成り名を遂げた人々十五人の子供時代を、その著書から振り返る企画。知っているひともあれば知らない人もあり、残念ながら知らない人はあまり興味…