読書

白靴

『朽葉色のショール』 小堀 杏奴著 著者は言わずと知れた鴎外の次女である。今まで何か読んだような気もするが記憶にない。姉の茉莉とは異なり堅実な家庭を築いた彼女らしい抑制のきいた文章である。生き方というか人生観に触れたものが多い。父鴎外の思い出…

蝉時雨

『私だけの仏教』 玄侑 宗久著 副題に「あなただけの仏教入門」とある。玄侑さんの豊富な知識を駆使して解りやすく解説された実践的仏教入門書である。そして、読後、自ら「仏教徒」と思い何の疑問も抱かなかった私は、仏教とはこういうものであったかと初め…

七月

『晩春の旅 山の宿』 井伏 鱒二著 先日読んだ岡武さんご推薦の随筆集である。「晩春の旅 山の宿 広島風土記 取材旅行 釣り宿」と五つに分かれている。巻末の「人と作品」は何と飯田龍太先生。井伏さんと龍太先生は膨大な往復書簡もあるくらいだから宜なるか…

百合

『羊と鋼の森』 宮下 奈都著 帯に「史上初!堂々の三冠受賞」とある。どんな本かと興味をもって読んだ。内容はピアノの調律の仕事に魅せられた青年の成長譚ともいうべきものだ。主人公の彼は純粋で今どき珍しいような青年で周りの人々にも愛されている。悩み…

立葵

本日は「夏至」。この時間(午後4時)に至りてやっと長い日の陽射しが差してきた。「夏至」で一句物しようと思ったのだがどうしても出来ず。ならば他人様のをお借りしようと思ったがこれも案外なし。また、来年への課題である。 畑の夏野菜が本格的に採れだ…

植田

『人生散歩術』 岡崎 武志著 「こんなガンバラナイ生き方もある」と題して「脱力系文学者」の人生と作品を俯瞰しようという試み。選ばれたのは井伏鱒二・高田渡・吉田健一・木山捷平・田村隆一・古今亭志ん生・佐野洋子の諸氏。いずれ劣らぬそうそうたる顔ぶ…

梅雨晴間

『静かな雨』 宮下 奈都著 話題の著者の作品である。ベストセラー本はなかなか回ってこないからまずは先行作品をと借りたもの。一人称語りの静かな作品。状況は決して明るくないのに絶望の中から立ち上がってくる救いがいい。筆者の別の作品も読んでみたいと…

時の日

『海に沿うて歩く』 森 まゆみ著 森さんの旅日記である。島・半島・町並み・物語の地に分けて三十一ヶ所。森さんらしい洞察と感想、土地の人々との交流とけっこう楽しく読んだ。出てくる土地の人々は多くは高齢であるから、これらの話も早晩消えていくこの国…

梅雨入

『来ちゃった』 酒井 順子文・ほし よりこ画 最近、とみに根気が続かない。あまり面白くないとなるとちっとも読めない。(ごめんなさい)著者の訪ねた三十七ヶ所の旅報告である。なかにはチベットやアイルランドと海外の旅報告もあり。当方がすでに出かけた…

菖蒲

『枕詞はサッちゃん』 内藤 啓子著 雨間をぬって図書館へ行く。今日も軽い本ばかりを借りてくる。『枕詞はサッちゃん』は昨日の新聞で第66回エッセストクラブ賞を受賞と報道されていた作品。 「サッちゃんはね サチコって いうんだ ほんとはね」の作詞家阪…

氷菓

『女三人のシベリア鉄道』 森 まゆみ著 なかなか読み切れない。厚いうえに薬のせいですぐにうとうとなるせいもある。決して中身がつまらないわけではない。 女三人とは与謝野晶子、中條(宮本)百合子、林芙美子である。何れもシベリア鉄道を経由して欧州を…

若葉寒

『記憶の海辺』 池内 紀著 池内さんの本は折りに触れてよく読んできた。もっとも先生の本業とはほど遠い軽いものばかりではある。どうしてだろうか。ちょっとへそ曲がりのところがいいというのもありますが、(そう言えば『二列目の人生』なんてのもありまし…

新緑

『貘さんがゆく』 茨木 のり子著 良かったからとTが回してくれる。山之内貘さんの詩と人柄についての茨木さんのエッセイ。全編茨木さんの暖かい眼差しと適確な選詩に溢れた好著である。貘さんの詩はよく教科書など載っているミミコの詩か沖縄についてのもの…

夏来る

『親子の時間』 庄野潤三小説撰集 岡崎 武志編 庄野ファンである岡武さんが撰集された庄野ワールドである。最初の一編を除いて後は文庫本未収録のものから選んだとある。久しぶりに庄野ファミリーの暖かさに触れたく、借りて来る。一時かなり読みふけっただ…

『みんな昔はこどもだった』 池内 紀著 池内さんの本だからTが読んでいたのをまわしてもらう。様々な分野で功成り名を遂げた人々十五人の子供時代を、その著書から振り返る企画。知っているひともあれば知らない人もあり、残念ながら知らない人はあまり興味…

春惜しむ

『かぐや姫の結婚』 繁田 信一著 摂関時代に「かぐや姫」とあだ名された姫の誕生から結婚までの実際のお話である。 姫の名前は藤原千古(ちふる)。父親は『小右記』を書いた藤原実質である。道長の対立勢力の雄ともいう人物で、むろん当時の権力の中枢にい…

蝌蚪(くわと)

『俳句で夜遊び、はじめました』 岸本 葉子著 入院中はコメント欄でおなじみのこはるさんの体験に習って、須賀敦子『コルシカ書店の仲間たち』を再読、その透明で感情を抑えた文体に随分慰められた。もう一冊読んだのは白洲正子『近江山河抄』でこれはやや粘…

さくら

『おらおらでひとりいぐも』 若竹 千佐子著 青春小説に対して玄冬小説と名づけて、話題の本である。筆者はまだお若いようだが、まさにこの桃子さんの年の当方にとっては、なるほどなるほどと納得のいく面白さであった。 桃子さん74歳。愛するご亭主を亡く…

春眠し

『ファミリー・ライフ』 アキール・シャルマ著 小野正嗣訳 新聞の書評欄で蜂飼耳さんが推奨されていたので、早速読む。辛い悲しい話だが救いもある話だ。著者はアメリカ在住のインド人で、この話はほとんど著者の体験に基づいた自伝的話だという。 主人公ア…

連翹

『入門俳句の表現』 藤田 湘子著 藤田湘子の俳句も好きだが、作句指導書も好きだ。この本は「俳句研究」の読書俳句欄での選評をまとめたもので、一般投句のうちから選んだたくさんの秀句が引用されて、とても勉強になり、再読である。 (名句は)すべて「朗…

犬ふぐり

『火山列島の思想』 益田 勝実著 東北大震災から七年である。早起きをして何ということもなくネットを見る。YouTubeで震災前に旅行で行った小泉海岸(2016・3・11参照)の津波の映像を見る。津波の映像はなんど見ても恐ろしい。美しかった松林や家々…

おぼろ

『中途半端もありがたい 玄侑宗久対談集』 対談集というのはやや苦手である。対談する二人の会話のテンポや水準についていけず、読んだという充足感がもてないことが多い。今回もそれは同様で、わからないところはわからないままに読んだというところである…

山椿

『文学としての俳句』 饗庭 孝男著 「俳句の十七字というものは容易ではない。短いから詠みやすい、と思う人は俳句などしない方がよい。」とのっけから厳しい。 俳句や短歌という短詩系文学が文芸時評の対象から消えてしまったのはなぜか。もちろん文学とし…

初蝶

『小さな雪の町の物語』 杉 みき子著 ネットでたまたまこの人の名に触れて、図書館の閉架棚から借り出してきた一冊。 くもり日の似合う町である。長いがんぎに寄りそわれた木造の家なみは、この町に城のあった数百年のむかしから、少しの変化もなく、低い空…

春炬燵

『苦界浄土』 石牟礼 道子著 それにしても酷い話であった。石牟礼さんが亡くなったことをきっかけに再読しようと手にとったのだが・・・。 発刊された1968年といえば大学を卒業した年で、当時この本を読んだ覚えはあるのだが、ここまでの重たさを感じて…

蕗味噌

『天野忠詩集』 天野 忠著 稔典さんの本で知って県立図書館で借りてきてもらった一冊。わかりやすく心に沁みる詩が多い。この詩集(日本現代詩文庫 土曜美術社)には、おそらく編集順だと思うが九つの詩集と詩画集とエッセイが収録されている。若いころとお…

卒業

『竹林精舎』 玄侑 宗久著 七年ぶりの書下ろしである。大僧侶に対して失礼な言い方かも知れないが、玄侑さんは真面目である。いつも真正面から物事に対峙しておられるところが好きで今回の一冊も期待して手に取った。 一言で言えば、東日本大震災で両親を亡…

料峭(りょうしょう)

『椋鳥日記』 小沼 丹著 この本について書いておられるブログを読んだ。Tの書棚にあったはずと出してくる。筆者のイギリス在住時のもので八編からなる短編小説集らしいが、小説というよりはエッセイという趣だ。プロットらしいものはなく淡々とした日常報告…

余寒

『古事記のひみつ』 三浦 佑之著 先に読んだ三浦さんの本『風土記の世界』で感じた「古事記とは一体何なのか」という疑問を解くための一冊である。 教科書ではどちらも天武天皇の詔で始まったが、『古事記』は稗田阿礼の誦習を太安万侶が編纂、『日本書紀』…

春立つ

「古代史講義」 佐藤 信編 久しぶりに買った新刊である。「邪馬台国から平安時代まで」と副題にあるとおりその間の「最新の研究成果や研究動向」を十五人の研究者で手分けして整理したものである。「昨今の研究の進展を受けてかっての古代史の通説は覆され」…