読書

春浅し

『老年文学傑作選』 駒田 信二編 ある人のブログでこの本の中の多田尋子さんの短篇『凪』がいいと知った。瀬戸内らしい小島での老老介護の話であった。悲劇ではあるが淡々とした筆致で読ませられた。入院当初はまだこんなものも読んでみようという気力はあっ…

梅白し

『人生店じまいはムズカシイ』マッちゃん84歳 沼田 正子著 入院したのが先月の6日、まさかの再入院と再手術となり都合38日となりました。まだ抜糸も終わらず痛み止めを飲んでのよたよた退院です。ここまで来るまでの先生(休日も来ていただきました。)看護…

歌留多会

昨日は我が家の「新年会」だった。娘一家を迎え大笑いをしていい年の始めであった。 「『こころ』異聞」 若松 英輔著 若松さんによる『こころ』の細読である。先生はなぜ死んだのか。Kはなぜ死を選んだのか。そしてこの本の語り手である「私」はこの手紙を誰…

日記果つ

『世界一周恐怖航海記』 車谷 長吉著 「世界一周」という惹句に惹かれて読んだ。船旅で世界一周とは車谷さんは随分お金持ちだなあと思ったのだがこれは豪華客船の旅ではなかった。ときどきポスターを見る「ピースボート」というもので割合に庶民的な感じだが…

数へ日

『飛族』 村田 喜代子著 この本の題名は「ひぞく」と呼ぶ。 池内紀さんが村田さんを贔屓にされていたというのをさる人のブログで知った。それで早速借りてきたわけだが、実に面白かった。 イオさん(92歳)ソメ子さん(88歳)ふたりは九州の西とおぼしき…

柚子湯

『井上ひさし ベスト・エッセイ』 井上 ユリ編 夫人による井上ひさしさんのエッセイ選集である。井上さんの本はよく読んだから中には既読のような気のするものもあったが何度目だとしても井上さんのは面白い。にやにや、くすくす面白いのとあまりの博識、マ…

大掃除

木蓮の落ち葉の片付けがようやく終わった。いつもながら初冬の大仕事である。何かをしている方が身体を使っていいのだが、これでだいたい迎春準備は終了である。あとはおせちだが「昆布巻き」も「黒豆」も「きんとん」も不適食べ物でちょっと残念。家人のた…

木守柿

『掃除婦のための手引き書』 ルシア・ベルリン著 岸本佐知子訳 Tが借りてきたのを返却前に回してもらう。近頃話題の本らしいが、書かれたのは少し前ですでに筆者は故人だ。短篇集だがすべてが彼女自身の投影らしい。実に起伏にとんだ人生を送った人のようで…

時雨

『ハーメルンの笛吹き男』 阿部 謹也著 この本の新装版がベストセラーであるらしい。ハーメルンの伝説の真相に迫ったものらしく、面白そうだ。買うか借りるか検討をしていたらTが家にあると言う。ずいぶんと古い本で読みにくそうだがせっかくだからとそれを…

冬菜畑

『やわらかく、壊れる』 佐々木 幹郎著 久しぶりに図書館で佐々木さんの本を見つけた。もっとも随分と前のものである。 大半は都市に関わる話、ことに半分は東京讃歌である。あとは1983年に始まった中野刑務所の解体工事に伴い、設計者後藤慶二やその特…

涸川

『日本浄土』 藤原 新也著 紀行文が好きである。図書館の棚に一冊だけ表紙を表向けにして飾られていたから借りてくる。 「今日、佳景に出会うことは大海に針をひろうがごとくますます至難になりつつあるのだ。」という筆者。それでも「うしなわれつつある風…

暮早し

『空爆下のユーゴスラビア』 ペーター・ハントケ著 元吉 瑞枝訳 今年のノーベル文学賞の受賞者はペーター・ハントケであるが、彼の受賞については様々に反発する声があると池澤夏樹さんが書いている。(「朝日新聞」11月6日朝刊) NATOによるユーゴの空爆…

小六月

『煤の中のマリア』 石牟礼 道子著 水俣病患者の支援活動を通して、石牟礼さんは人間性のなかの聖性ということに惹かれるようになったという。救いのない殉教に身を投じた島原の乱の人々について綴ろうと取材を重ねた道行きが第一章「草の道ー島原の乱紀行」…

冬に入る

『市場界隈』 橋本 倫史著 沖縄の旅の最終章、那覇空港の本屋さんで購入した。那覇市の第一牧志公設市場界隈の人々に取材して紹介した本である。 「1950年に牧志公設市場が開設された。現在の建物は1972年に建設されたものだが、老朽化が進み、20…

秋深し

『エストニア紀行』 梨木 香歩著 エストニアはいわゆるバルト三国のうちの一番北の国である。首都はタリン、面積は九州ほどで人口は沖縄県よりやや少ない。IT化が進んでおり安全で報道の自由なども高い国だという。長い間他国に支配された歴史をもち、中でも…

金木犀

『パンと野いちご』 山崎 佳代子著 副題に「戦火のセルビア、食物の記憶」とある。その名のとおりセルビアの内戦で難民とならざるをえなかった人々が苦しかった状況の中で日々何を食べてをのりこえてきたかということへの聞き書きである。恥ずかしいことだが…

秋の暮

『神戸・続神戸』 西東 三鬼著 書下ろしが昭和29年から昭和34年とあるから随分古いものである。今になってなぜ出されたのかその辺りの事情はわからないがその価値は十分あるほど面白い。何が面白いかといってひとつには三鬼の無頼ともいっていい生き方、…

小鳥来る

『やがて満ちてくる光の』 梨木 香歩著 新聞の書評欄で作家の室田玲子さんが「生活のヒトコマにきらめく叡智」と題して紹介されていた。「身近な生活のヒトコマから紡いだ随想が静かな筆致で語られる。そしてときおり叡智がきらめく」実に適確な書評で流石に…

花芒

『小さな町』 小山 清著 小山が生涯に書いたものは五十編弱でそのほとんどが短篇だという。この本に収録されたのは十編。彼自身の短いあとがきによれば、戦争中東京の下町で新聞配達をしたことや、戦後北海道の夕張炭鉱で炭鉱夫したことに取材した作品群とい…

曼珠沙華

『ベオグラード日記』 山崎 佳代子著 久しぶりに引き込まれて読了。筆者のことはもちろんベオグラードという地名にも馴染みがなかった。ベオグラードというのはセルビア共和国の首都、かってはユーゴスラビアの首都という。バルカン半島の複雑な政争で今はセ…

秋風

「秋は夕暮れ 夕日のさして山のはいとちかうなりたるに からすのねどころへ行くとて みつよつ ふたつみつなどとびいそぐさへあはれなり」 よく知られた『枕草子』の一部である。 やっと猛暑も抜けてきて朝晩はことに過ごしやすくなった。夕方、暮れかける前…

ちちろ

『短篇礼讃』 忘れかけた名品 大川 渉編 またまたTの未読本の書棚から出してくる。book/offの500円のシールが貼られているので古本としては少しお高いほうか。 「類まれななる才能を十分開花させることなく早世した作家たちの心癒やされる短篇」とある。 …

名月

『千年 あの夏』 阿部 昭著 Tの未読の本棚にあったから出してきたが始めて読む作家の本である。表題作の「千年」や「あの夏」などの短篇とやや長い「父と子の夜」が収められている。 どれも思ったより読ませられたが「父と子の夜」が一番良かった。 筆者は三…

秋茄子

『関東大震災』 吉村 昭著 防災の日もあったことだからと読み始めたが、重い内容でいっこうに進まず時間がかかった。読了して始めて知ったことはいろいろある。震災の死者が圧死より焼死が多かったこと、流言飛語による朝鮮人狩が言語を絶する規模であったこ…

秋暑し

今朝の新聞で池澤夏樹さんが「身に染みる衰え」について書いておられた。加齢に伴っていろいろ不都合なことができてきたという個人的な感想のあと「高齢化でこの国は活力を失うだろう。・・・若い世代を準備しなかったのだから当然である。」と自分たちの世…

草の花

『史実を歩く』 吉村 昭著 図書館の文庫本の棚を渉猟していて行き当たった。読み始めて前に読んだような気がしてきて自分の書棚を探したらやはりあった。 再読してもおもしろかったのはすっかり忘れていたこともあるが、やはり史実の重みであろう。 記録文学…

秋ついり

『失われたもの』 斎藤 貴男著 硬骨漢なジャーナリストだということ以外、この人のことはよく知らなかった。しかしこの本は何かについての解説本でも主張本でもない。生い立ちに触れたエッセイ集である。 「日本社会から『失われたもの』とは何だろう。平和…

鰯雲

大伴家持についての最終章である。長々と付き合ってどうやら図書館の返却期限に間に合った。 仲麻呂一派の専横により因幡の守になった家持だが地方への赴任はこれにとどまらなかった。その後薩摩守(48歳)相模守(57歳)伊勢守(59歳)時節征夷将軍(67歳…

虫時雨

今回の家持は34歳から42歳まで、越中より帰京して再び因幡国守となって地方に赴任するまでである。万葉集との関係では兵部省の役人として防人の歌を収集した時期にあたり、またこの時期の最後をもって「歌わぬ人」になったということもある。 さて、少納…

秋めく

まだもって『大伴家持』である。教養のない身には読めない漢字や意味の解せない歌が多くて百ページを読むのがやっとこさである。 今回は家持の越中国守時代、年齢で言えば29歳から34歳までの五年間である。国守といえば一国の最高権力者ではあるが都から…