読書

村芝居

「新釈 遠野物語」 井上ひさし著 その前読んだ「東北ルネッサンス」の中で赤坂さんがこの本に触れて、柳田さんの「遠野物語」とくらべて「語りということを非常に意識されていた」などと書いておられたので、てっきり東北弁の語り本と勘違いしていた。まあ東…

金木犀

「五重塔」 幸田露伴著 いやはや凄い話だった。こういう文体を「求心的文体」というらしいのだが、畳み掛けるような調子に息もつかず一気に読んだ。ことに完成なった塔を揺さぶる大嵐のこれでもかこれでもかという描写、吹きすさぶ暴風雨が目に見え耳に聞こ…

「にんげん住所録」 高峰 秀子著 二十四節気の「寒露」。露がしみじみと冷たく感じられる頃である。今日は晴れて気温も上がるとの予報だが、このところの朝晩の冷え込みには、一段と秋の深まりを感じさせる。 図書館で何気なく借りてきた一冊。彼女とは世代…

「東北ルネサンス」 赤坂 憲雄著 まだ東北にこだわっている。Tの書棚にあった赤坂さんの対談集。東北にこだわった七つの対話記録、どの対話も熱い東北讃歌である。かの地においては三内丸山遺跡の発掘がもたらした影響は多きかったようだ。中央以前に優れた…

吾亦紅

「街道をゆく 9」 司馬 遼太郎著 また、司馬さんを読んでいる。先週・先々週と三週ばかりNHKの「ブラタモリ」の高野山を見たので、司馬さんの「高野山みち」を再読。これは朝日文庫の「街道をゆく」の9に入っている比較的短い話。改めて読んで興味を引いた…

鳥渡る

「北のまほろば」 司馬 遼太郎著 先日の赤坂さんの本に刺激され、再読。久しぶりに司馬さんのたかだかした文体に接して快かった。それは、まさに司馬さん流の喩えをつかえば、秋空に浮かぶ白雲のような快さである。 「北のまほろば」は全編青森県紀行。津軽…

秋晴

「犬心」 伊藤 比呂美著 帯紙に「これはいのちのものがたり」とある。タケというシェパード犬の老いて死ぬ話である。タケは「散歩と食べ物には人間離れした熱意をもっているだけで、あとは、人と暮らすのとあんまりかわらない。」という伊藤さんの愛犬。十三…

木の実

「司馬遼太郎東北をゆく」 赤坂憲雄著 面白かったからとTから回ってきた一冊。確かに面白く、久しく忘れていた司馬さんの快い語り口も思い出す。赤坂さんは東北地方をフィールドに活動中の民俗学者。東北大地震を経ても、西の人びとにとっては東北はやはり遥…

秋光

「芭蕉庵桃青」 中山義秀著 なかなか読み応えのある一冊だった。時に翁の行脚に付き合い時に翁の孤愁に寄り添い、一句一句を読み継ぎようやく読み終わった次第。裏表紙に「義秀文学畢生の力作」と紹介されていたが織り込まれた発句や連句の数多さからも、芭…

登高

「あしながおじさん」 ウェブスター著 何で今さらこの本?ということだが、この前読んだ佐野洋子さんの本のせいだ。佐野さんが何十年ぶりかに読んで、泣けた泣けたと書いていたのでこちらも懐かしくなった。「赤毛のアン」も「若草物語」も書棚の奥で埃にま…

「へんな子じゃないもん」 ノーマ・フィールド著 先に読んだ本(「天皇の逝く国で」)と対照的に家族を軸に個人的な感慨をまとめた一冊である。ほぼ同時代に書かれたというのが共通点か。ノーマさんは日本人の母親とアメリカ人の父親との間に生を受け、当時…

「ふつうがえらい」 佐野 洋子著 Tが本棚の整理を始めた。佐野さんの本を二冊持ってきて、処分しようと思うけれどいいかと聞いてきた。当方が佐野さん好きなのをおもんばかってのこと。「がんばりません」と「ふつうがえらい」の文庫本。どちらも読んだ気が…

休暇果つ

「天皇の逝く国で」 ノーマ・フィールド著 ノーマさんの名を知ったのは新聞のインタビュー記事である。心に残る言葉があって、ノートに書き写したのだ。最近たまたま名前を拝見して、検索でこの本を知った。題名のとおり、1988年から1989年、昭和天…

夏負け

「鴎外の坂」 森 まゆみ著 大変な労作である。著者は鴎外亭から徒歩で十五分ほどの近くに生まれ、同姓でもある鴎外に非常に関心をもったと書いている。足跡を追うように「鴎外の暮らした東京の土地の一つ一つを自分でたどりなおして」土地土地にまつわる作品…

水密桃

「アーサーの言の葉食堂」 アーサー・ビナード著 面白かったからとTから回ってきた一冊。よく知らない人だと思ったが、たまたま書評で読みたいと思っていた一冊、「知らなかった、ぼくらの戦争」の著者だと知ってちょっと嬉しい気分がする。ビナードさんはア…

鯔(ぼら)

「空席日誌」 蜂飼 耳著 変わったペンネームだ。以前、Tにこの著者の別の本を薦められた時、「男性なの?女性なの?」と聞いた気がする。今回もやっぱり同じことを聞いて「そうだ女性だった」と思い出した。多才な人である。紹介を読むと、詩人としての活動…

稲の花

「さい果て」 津村 節子著 この筆者の作品は、「紅梅」や「夫婦の散歩道」など吉村氏没後の思い出を書いたものしか読んだことがない。が、たまたまTが古本屋で仕入れてきた山積み本の中の一冊という縁で手に取る。「さい果て」とひとくくりになっている五編…

法師蝉

「津軽」 太宰 治著 「こころ旅」で津軽半島を映していて、この本が話題になった。Tがいい本だと言い、部分的に覚えているような気もしたが、読み返すことに。 太宰自身の手による故郷探訪である。昭和19年の話らしいが戦争臭はほとんどない。太宰らしくな…

今朝の秋

二十四節気の「立秋」。秋の気配がほの見える頃というが、あいにくの天候。風はあっても不穏な先行きを感じさせ、時折ザーとくる雨で蒸し暑い。 閉じこもって本でも読むしかなしと、図書館で借りた宮部みゆき。短編が四編入った単行本。内二編を読む。この作…

夏の雲

昨日、美容院で「11日(山の日・祝日)で休みます」の張り紙をみつけて、自分のうかつさに初めて気づく。「山の日なんて、いつからできたの」とスッタフに聞くと「去年からですよ。お盆に長期休みを取らせようという政府の魂胆でしょ。12日は御巣鷹の日…

三尺寝

「沖縄の歴史と文化」 外間 守善著 昨日の朝刊に「列島の南北を結ぶ縄文土器」とあって、沖縄北谷町での出土品が亀ケ岡土器の破片であったと紹介されていた。亀ケ岡といえば東北も最北端で、最北端と最南端がすでに先史時代から結びつきがあったというのがと…

甚平

「バッタを倒しにアフリカへ」 前野 ウルド 浩太郎著 Tがすごく面白かったというので、回してもらう。その評価に違わず、面白く一気に読んだ。 前野さんは昆虫学者である。博士号を取ったものの、好きな昆虫の研究をしながらどう生活を成り立たせていくか悩…

水を打つ

「古代蝦夷の英雄時代」 工藤 雅樹著 「蝦夷」とは何か。時代によってエミシ・エビスの概念は変わるが、要は「大和朝廷の支配の外にあった人々である」。初期には関東以北の人々を指すときもあったが大和朝廷の勢力の拡大とともに同化が進んで、奈良時代後半…

蝉時雨

「芸人と俳人」 又吉直樹×堀本裕樹著 俳句は全くの素人だという又吉さんを相手に俳人の堀本さんが手取り足取り解説する俳句の入門書。特別に目新しいことはないが、そこは多彩な又吉さん相手。反応がユニークだ。又吉さんは相当自意識の強い人だなあと思う。…

滴り(したたり)

「崩れ」 幸田 文著 この頃の異常気象による山崩れや酷い時には山体崩壊などという事象を見ていて、幸田さんの「崩れ」を読み直したいと思った。幸田さんはこの作品の取材時が72歳、まさに同年齢だというのも再読を促したきっかけかもしれぬ。案の定、昔な…

浴衣

夕餉の支度をしながら名古屋場所の中継を見るともなく見ていた。相撲観戦にも「浴衣デー」なんかがあるのかしらんと思うほど浴衣で観戦の人が多い。今日は力士の人たちの浴衣も紹介していて、これもなかなか華やか。なんでも幕内になると独自な浴衣をこしら…

梅雨出水

「日本文化の形成」 宮本 常一著 図書館の歴史コーナーに隠れるようにあった一冊。宮本さんの遺作だという。大雑把に要約すれば、長い縄文文化の上に稲作とともに弥生式文化が入りさらに古墳文化ともいうべき大陸の文化が流入して、大量の渡来人をも受け入れ…

日の盛り

「火花」 又吉 直樹著 重版に重版を繰り返した話題作である。今さら何かを語るまでもあるまい。舞台はお笑い芸人の世界だが誰もが思い当たるような青春の友情・挫折物語だ。又吉さんを彷彿とさせる語り手の徳永は、はからずも青春期を離陸した。仮に又吉さん…

サングラス

「茨木のり子の献立帖」・「茨木のり子の家」 この二冊ですっかり彼女の私生活に詳しくなってしまった。二冊とも写真集と短文である。前者には家庭人として家計のやりくりや料理に勤しむ彼女の献立表と日記。頻繁に表れるYという同伴者のことも含めて、若き…

七月

「はつ恋」 ツルゲーネフ著 こんな古い本を出してきたのも、近頃は読みたいものがなかなか見つけられないから。図書館の書棚を見回しても小説家も俳人も歴史家も目に付くのは故人ばかり。好きだった人は大方鬼籍に入ってしまわれたのは、こちらも歳をとった…