読書

若葉寒

『記憶の海辺』 池内 紀著 池内さんの本は折りに触れてよく読んできた。もっとも先生の本業とはほど遠い軽いものばかりではある。どうしてだろうか。ちょっとへそ曲がりのところがいいというのもありますが、(そう言えば『二列目の人生』なんてのもありまし…

新緑

『貘さんがゆく』 茨木 のり子著 良かったからとTが回してくれる。山之内貘さんの詩と人柄についての茨木さんのエッセイ。全編茨木さんの暖かい眼差しと適確な選詩に溢れた好著である。貘さんの詩はよく教科書など載っているミミコの詩か沖縄についてのもの…

夏来る

『親子の時間』 庄野潤三小説撰集 岡崎 武志編 庄野ファンである岡武さんが撰集された庄野ワールドである。最初の一編を除いて後は文庫本未収録のものから選んだとある。久しぶりに庄野ファミリーの暖かさに触れたく、借りて来る。一時かなり読みふけっただ…

『みんな昔はこどもだった』 池内 紀著 池内さんの本だからTが読んでいたのをまわしてもらう。様々な分野で功成り名を遂げた人々十五人の子供時代を、その著書から振り返る企画。知っているひともあれば知らない人もあり、残念ながら知らない人はあまり興味…

春惜しむ

『かぐや姫の結婚』 繁田 信一著 摂関時代に「かぐや姫」とあだ名された姫の誕生から結婚までの実際のお話である。 姫の名前は藤原千古(ちふる)。父親は『小右記』を書いた藤原実質である。道長の対立勢力の雄ともいう人物で、むろん当時の権力の中枢にい…

蝌蚪(くわと)

『俳句で夜遊び、はじめました』 岸本 葉子著 入院中はコメント欄でおなじみのこはるさんの体験に習って、須賀敦子『コルシカ書店の仲間たち』を再読、その透明で感情を抑えた文体に随分慰められた。もう一冊読んだのは白洲正子『近江山河抄』でこれはやや粘…

さくら

『おらおらでひとりいぐも』 若竹 千佐子著 青春小説に対して玄冬小説と名づけて、話題の本である。筆者はまだお若いようだが、まさにこの桃子さんの年の当方にとっては、なるほどなるほどと納得のいく面白さであった。 桃子さん74歳。愛するご亭主を亡く…

春眠し

『ファミリー・ライフ』 アキール・シャルマ著 小野正嗣訳 新聞の書評欄で蜂飼耳さんが推奨されていたので、早速読む。辛い悲しい話だが救いもある話だ。著者はアメリカ在住のインド人で、この話はほとんど著者の体験に基づいた自伝的話だという。 主人公ア…

連翹

『入門俳句の表現』 藤田 湘子著 藤田湘子の俳句も好きだが、作句指導書も好きだ。この本は「俳句研究」の読書俳句欄での選評をまとめたもので、一般投句のうちから選んだたくさんの秀句が引用されて、とても勉強になり、再読である。 (名句は)すべて「朗…

犬ふぐり

『火山列島の思想』 益田 勝実著 東北大震災から七年である。早起きをして何ということもなくネットを見る。YouTubeで震災前に旅行で行った小泉海岸(2016・3・11参照)の津波の映像を見る。津波の映像はなんど見ても恐ろしい。美しかった松林や家々…

おぼろ

『中途半端もありがたい 玄侑宗久対談集』 対談集というのはやや苦手である。対談する二人の会話のテンポや水準についていけず、読んだという充足感がもてないことが多い。今回もそれは同様で、わからないところはわからないままに読んだというところである…

山椿

『文学としての俳句』 饗庭 孝男著 「俳句の十七字というものは容易ではない。短いから詠みやすい、と思う人は俳句などしない方がよい。」とのっけから厳しい。 俳句や短歌という短詩系文学が文芸時評の対象から消えてしまったのはなぜか。もちろん文学とし…

初蝶

『小さな雪の町の物語』 杉 みき子著 ネットでたまたまこの人の名に触れて、図書館の閉架棚から借り出してきた一冊。 くもり日の似合う町である。長いがんぎに寄りそわれた木造の家なみは、この町に城のあった数百年のむかしから、少しの変化もなく、低い空…

春炬燵

『苦界浄土』 石牟礼 道子著 それにしても酷い話であった。石牟礼さんが亡くなったことをきっかけに再読しようと手にとったのだが・・・。 発刊された1968年といえば大学を卒業した年で、当時この本を読んだ覚えはあるのだが、ここまでの重たさを感じて…

蕗味噌

『天野忠詩集』 天野 忠著 稔典さんの本で知って県立図書館で借りてきてもらった一冊。わかりやすく心に沁みる詩が多い。この詩集(日本現代詩文庫 土曜美術社)には、おそらく編集順だと思うが九つの詩集と詩画集とエッセイが収録されている。若いころとお…

卒業

『竹林精舎』 玄侑 宗久著 七年ぶりの書下ろしである。大僧侶に対して失礼な言い方かも知れないが、玄侑さんは真面目である。いつも真正面から物事に対峙しておられるところが好きで今回の一冊も期待して手に取った。 一言で言えば、東日本大震災で両親を亡…

料峭(りょうしょう)

『椋鳥日記』 小沼 丹著 この本について書いておられるブログを読んだ。Tの書棚にあったはずと出してくる。筆者のイギリス在住時のもので八編からなる短編小説集らしいが、小説というよりはエッセイという趣だ。プロットらしいものはなく淡々とした日常報告…

余寒

『古事記のひみつ』 三浦 佑之著 先に読んだ三浦さんの本『風土記の世界』で感じた「古事記とは一体何なのか」という疑問を解くための一冊である。 教科書ではどちらも天武天皇の詔で始まったが、『古事記』は稗田阿礼の誦習を太安万侶が編纂、『日本書紀』…

春立つ

「古代史講義」 佐藤 信編 久しぶりに買った新刊である。「邪馬台国から平安時代まで」と副題にあるとおりその間の「最新の研究成果や研究動向」を十五人の研究者で手分けして整理したものである。「昨今の研究の進展を受けてかっての古代史の通説は覆され」…

冬晴れ

「ヒマ道楽」 坪内 稔典著 俳人の坪内稔典さんのエッセイ集である。1944年生まれとあるからひとつ年上。三十年来朝食に餡パンを食し、カバを愛し、力の抜き方を教えてくださる。いくつかの俳句や詩の紹介の内、思わず笑えるひとつ。全編ではないのが残念…

寒波来る

「未来への記憶 上・下」 河合 隼雄著 この前読んだ本のユング心理学に触れた部分が気になり、Tの本棚から河合さんの本を出してきた。副題で「自伝の試み」とあり河合さんからの聞き書きをまとめたもの。これならまず読めそうと踏んでのことである。予想に違…

着ぶくれ

「ネコはどうしてわがままか」 日高 敏隆著 気分が乗らないというか何と言うか面白い本に出会わない。図書館から借りてきたものもつまみ読みをして放り出したまま。「何か面白い本ないですかぁ」とTやH殿の本棚を渉猟する。その結果、これは全く気楽に読めそ…

大寒

「生き上手 死に上手」 遠藤 周作著 題名に惹かれて読んだが面白くなかった。随分死ぬことを恐れていろいろ書いておられるが、筆者六十代後半、いまならまだまだ若いといってもよい年齢である。文中、ある集まりでふとしたことから「死ぬのはこわいか、こわ…

女正月

「風土記の世界」 三浦 佑之著 「風土記」は元来和銅六年、律令政府によって正史「日本書」の地理志を編むための資料として各国に出された命令の解(報告文書)らしい。後世の写本だがほぼ残るものは、「常陸国風土記」と「出雲国風土記」を始めとする五か国…

冬銀河

「静かな水」 正木ゆう子著 正木ゆう子さんの第三句集である。平成六年から平成十四年までの296句を収録とある。今は第五句集が話題になっているようだから少し古い。正直に言えば本屋で句集を購入したというのは数えるほどしかない。結社にいたころは買…

冬籠

「すごいトシヨリBOOK」 池内 紀著 池内さんの文章が好きで随分いろいろ読んだが、これは肌いろが違う。あとがきを読むとどうやらテープ起こしをしたものらしい。だが、池内さんらしいところがないわけではない。例えばいろいろ記録をする、自分なりのルール…

筆初

「あと千回の晩飯」 山田風太郎著 食べられる夕飯はあと千回(だいたい三年)、「もう一食たりとも意に染まぬ晩飯は食わない」と思い立っての書き始めだったが、糖尿病を発病。病院食となる。なかなか思うようにはいかぬなかで、老残を数えたり死に方を考え…

冬至

「老いるについて」 浜田 晋著 また、浜田先生の本を借りてきた。 この本で浜田さんは、「呆け」と「痴呆(認知症)」は違うとかなり強調しておられる。ひどい物忘れ、好奇心がなくなる、整理ができない、鍵をかけ忘れる、うっかりミスが増える、こういうの…

年詰まる

「ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた」 高橋 源一郎著 こどもの言葉でこどもの気持ちで語るお話風社会批評。 ある年の夏休み、語り手のランちゃんたち小学生四人は夏休みのものづくりのひとつとして「くに」をつくろうと考えた。こんな突拍…

冬帽子

「あの頃」 武田百合子著 信じられないことだが新刊なのである。没後25年、花さんもお歳を召されてきて、自分の元気なうちにと未収録のものをまとめられたらしい。同一人物だから当たり前だが「富士日記」の百合子さんを彷彿とさせる。帯に「たぐいまれな…