読書

秋風

「秋は夕暮れ 夕日のさして山のはいとちかうなりたるに からすのねどころへ行くとて みつよつ ふたつみつなどとびいそぐさへあはれなり」 よく知られた『枕草子』の一部である。 やっと猛暑も抜けてきて朝晩はことに過ごしやすくなった。夕方、暮れかける前…

ちちろ

『短篇礼讃』 忘れかけた名品 大川 渉編 またまたTの未読本の書棚から出してくる。book/offの500円のシールが貼られているので古本としては少しお高いほうか。 「類まれななる才能を十分開花させることなく早世した作家たちの心癒やされる短篇」とある。 …

名月

『千年 あの夏』 阿部 昭著 Tの未読の本棚にあったから出してきたが始めて読む作家の本である。表題作の「千年」や「あの夏」などの短篇とやや長い「父と子の夜」が収められている。 どれも思ったより読ませられたが「父と子の夜」が一番良かった。 筆者は三…

秋茄子

『関東大震災』 吉村 昭著 防災の日もあったことだからと読み始めたが、重い内容でいっこうに進まず時間がかかった。読了して始めて知ったことはいろいろある。震災の死者が圧死より焼死が多かったこと、流言飛語による朝鮮人狩が言語を絶する規模であったこ…

秋暑し

今朝の新聞で池澤夏樹さんが「身に染みる衰え」について書いておられた。加齢に伴っていろいろ不都合なことができてきたという個人的な感想のあと「高齢化でこの国は活力を失うだろう。・・・若い世代を準備しなかったのだから当然である。」と自分たちの世…

草の花

『史実を歩く』 吉村 昭著 図書館の文庫本の棚を渉猟していて行き当たった。読み始めて前に読んだような気がしてきて自分の書棚を探したらやはりあった。 再読してもおもしろかったのはすっかり忘れていたこともあるが、やはり史実の重みであろう。 記録文学…

秋ついり

『失われたもの』 斎藤 貴男著 硬骨漢なジャーナリストだということ以外、この人のことはよく知らなかった。しかしこの本は何かについての解説本でも主張本でもない。生い立ちに触れたエッセイ集である。 「日本社会から『失われたもの』とは何だろう。平和…

鰯雲

大伴家持についての最終章である。長々と付き合ってどうやら図書館の返却期限に間に合った。 仲麻呂一派の専横により因幡の守になった家持だが地方への赴任はこれにとどまらなかった。その後薩摩守(48歳)相模守(57歳)伊勢守(59歳)時節征夷将軍(67歳…

虫時雨

今回の家持は34歳から42歳まで、越中より帰京して再び因幡国守となって地方に赴任するまでである。万葉集との関係では兵部省の役人として防人の歌を収集した時期にあたり、またこの時期の最後をもって「歌わぬ人」になったということもある。 さて、少納…

秋めく

まだもって『大伴家持』である。教養のない身には読めない漢字や意味の解せない歌が多くて百ページを読むのがやっとこさである。 今回は家持の越中国守時代、年齢で言えば29歳から34歳までの五年間である。国守といえば一国の最高権力者ではあるが都から…

夏の果

『大伴家持』 北山 茂夫著 昨日、一昨日と病院であったせいもあるが、遅々として進まない読書である。 病院の方は癌の影はなくなったようだと言われ一安心。だが、放射線治療の後遺症はまだ当分は続きそうだ。大きくなった腫瘍を焼き切ったということなので…

残暑

台風が去っても涼しくなるというわけではないが、それでも日が沈めば少し秋めいた気配も。昼間に椋鳥が大挙して押しかけ庭の柿の木で大騒ぎを繰り返していたのも秋といえば秋だ。 先日NHKで「大伴家持」についての番組が放映され、その意外な生涯に興味を持…

終戦日

『帰郷』 浅田 次郎著 戦争体験はない作者による戦争文学である。すべてフィクションではあるがどれもがありえたと思える話である。 表題作の「帰郷」は玉砕の島から九死に一生を得て帰った男の話である。残した妻や子に会えるのを生き抜く励みに帰郷すれば…

法師蝉

『子どもたちの階級闘争』 ブレイディみかこ著 少し前の話題の本である。筆者は英国在住二十年、かの地で託児所勤務を通してのイギリス社会の現状報告といったらよいだろうか。もちろん報告書などという味気ないものではない。彼女が肌で触れ合った子どもや…

原爆忌

『原民喜』 梯 久美子著 いきなり自死の件から始まる悲しい話である。 彼は、子どもの頃より人一倍繊細な自意識の持ち主であった。今で言えばいじめのような就学時代は、殻に閉じこもって一言も発しない子どもだったらしい。 そういう年頃にだれよりも彼の心…

夏休み

『猫のためいき鵜の寝言 十七音の内と外』 正木 ゆう子 随分と長い題名のエッセイである。 「変な書名とおもうけれども、拙文もため息や寝言の類であるし、このところずっと『猫のためいき鵜の寝言 十七音の内と外』が調子がよく頭の中で鳴り止まないので、…

八月

『原民喜戦後全小説』 原 民喜著 毎年八月は「戦争関連文学」を読むことにしている。今年は原民喜の『夏の花』を読もうと思い、Tの本棚から掲出の本と『原民喜全詩集』、それから梯久美子さんの評伝『原民喜』を出してきた。まず梯さんの本の序章で彼の自死…

猛暑

『死をみつめて生きる』 上田 正昭著 副題は「日本人の自然観と死生観」。東日本大震災後、寺田寅彦博士の「日本人の自然観」のいましめを思い出したことがこれを書くきっかけになったとある。つまり災害の多い日本では自然は時として「厳父」として「遊情に…

涼し

『魂の秘境から』 石牟礼 道子著 文章を書くということは、自分が蛇体であることを忘れたくて、道端の草花、四季折々に小さな花をつける雑草とたわむれることと似ていると思う。たとえば、春の野に芽を出す七草や蓮華草や、数知れず咲き拡がってゆく野草のさ…

西瓜

『平成遺産』 八人の著者による平成オムニバス。あまりおもしろくなかったから一頁よんで止めた人もいたが読み通したなかでブレイディみかこさんの「ロスジェネを救え?いや、救ってもらえ」はちょっと考えさせられたので触れておきたい。 みかこさんはイギ…

『絶版殺人事件』 ピエール・ヴェリー著 佐藤 絵里訳 図書館の新刊コーナーで立派なミステリー本を見つけ、雨のつれづれに読む。作者はフランス人、作品は第一回フランス冒険小説大賞を受賞とある三十年前の作品だ。 謎を解くのはフランス人の引退した古文書…

梅雨長し

『アジア海道紀行』 佐々木 幹郎著 県の図書館で未読の佐々木さんの本と久しぶりに出会った。この人の書きっぷりが好きなのだが最近はどうしておられるのかなかなか出会わない。この本とて発刊は古いといえば古い。 海道紀行というのは鑑真などの足跡を辿り…

青大将

『天野 忠随筆選』 山田 稔選 天野さんの既刊の随筆集をもとに山田さんが編まれた随筆集である。天野さんの詩集は先に読んだが特に心に残っのは老妻ものだ。これは随筆集であり詩集とはまた違った趣があるに違いない。 あとがきで山田さんは、「何でもないこ…

梅雨晴れ間

『父を焼く』 上野英信と筑豊 上野 朱著 戦後、筑豊の地で地域に根付いた文化活動に力を尽くした上野英信氏のご子息による回想譚である。谷川雁や森崎和江の名前は知っていたが正直に言って上野氏のことはよく知らなかった。今回これを読んで並々ならぬ信念…

梅雨空

『浄瑠璃を読もう』 橋本 治著 橋本さんのやさしく教えてくださる古典シリーズの一冊である。春の旅で淡路島で人形浄瑠璃を見てから気になっていた「文楽」という日本の古典芸能、この際勉強しようと読み始めたのだがなかなか進まない。やっと三大名作と言わ…

蝸牛

『誘拐』 本田 靖春著 Tが古本屋から仕入れてきた一冊で一時代前のドキュメンタリーの名作らしい。(文藝春秋読者賞・講談社出版文化賞)若い人成らずとも今の人は知らないだろうが「吉展ちゃん」という名前を当方などはしっかり覚えている。昭和37年、先…

浮いてこい

『新訳 説教節』 伊藤 比呂美著 説経節に惚れた惚れたという伊藤さんの熱意に煽られて、説経節とはいかなるものやと手にしたこの本。「小栗判官」も「しんとく丸」も、みめ麗しき貴公子や深窓の姫君が思わぬ不幸に陥いるが、神仏の助けでめでたしめでたしと…

夏至

『消えた国 追われた人々』 東プロシアの旅 池内 紀著 Tが読んでいて面白そうだったから回してもらった一冊。読み応えのある話だった。かって「東プロシア」という国があったということも、その国の消滅に際して多くの人々が難民となったことも、また難民を…

川とんぼ

『最後の読書』 津野 海太郎著 津野さんの生年は1938年とあるから当方とはたった7歳しか違わない。「老人、老人」と言われると現実なのだが他人事みたい。あとがきに 鶴見さんの「最後の読書」ーそれをみちびきの杖に、それにすがってあたりを慢歩する…

茂り

『龍太語る』 飯田 龍太・飯田 秀實監修 この本は龍太さんの晩年の聞き書きを纏めたもので生涯にわたる思い出話である。読んでいると龍太さんの人となりがわかってくる。華奢な体躯には似合わず豪胆で気骨があるとか、もちろんそれは『雲母』をスパッと終刊…