残暑

台風が去っても涼しくなるというわけではないが、それでも日が沈めば少し秋めいた気配も。昼間に椋鳥が大挙して押しかけ庭の柿の木で大騒ぎを繰り返していたのも秋といえば秋だ。 先日NHKで「大伴家持」についての番組が放映され、その意外な生涯に興味を持…

終戦日

『帰郷』 浅田 次郎著 戦争体験はない作者による戦争文学である。すべてフィクションではあるがどれもがありえたと思える話である。 表題作の「帰郷」は玉砕の島から九死に一生を得て帰った男の話である。残した妻や子に会えるのを生き抜く励みに帰郷すれば…

法師蝉

『子どもたちの階級闘争』 ブレイディみかこ著 少し前の話題の本である。筆者は英国在住二十年、かの地で託児所勤務を通してのイギリス社会の現状報告といったらよいだろうか。もちろん報告書などという味気ないものではない。彼女が肌で触れ合った子どもや…

原爆忌

『原民喜』 梯 久美子著 いきなり自死の件から始まる悲しい話である。 彼は、子どもの頃より人一倍繊細な自意識の持ち主であった。今で言えばいじめのような就学時代は、殻に閉じこもって一言も発しない子どもだったらしい。 そういう年頃にだれよりも彼の心…

夏休み

『猫のためいき鵜の寝言 十七音の内と外』 正木 ゆう子 随分と長い題名のエッセイである。 「変な書名とおもうけれども、拙文もため息や寝言の類であるし、このところずっと『猫のためいき鵜の寝言 十七音の内と外』が調子がよく頭の中で鳴り止まないので、…

八月

『原民喜戦後全小説』 原 民喜著 毎年八月は「戦争関連文学」を読むことにしている。今年は原民喜の『夏の花』を読もうと思い、Tの本棚から掲出の本と『原民喜全詩集』、それから梯久美子さんの評伝『原民喜』を出してきた。まず梯さんの本の序章で彼の自死…

猛暑

『死をみつめて生きる』 上田 正昭著 副題は「日本人の自然観と死生観」。東日本大震災後、寺田寅彦博士の「日本人の自然観」のいましめを思い出したことがこれを書くきっかけになったとある。つまり災害の多い日本では自然は時として「厳父」として「遊情に…

涼し

『魂の秘境から』 石牟礼 道子著 文章を書くということは、自分が蛇体であることを忘れたくて、道端の草花、四季折々に小さな花をつける雑草とたわむれることと似ていると思う。たとえば、春の野に芽を出す七草や蓮華草や、数知れず咲き拡がってゆく野草のさ…

西瓜

『平成遺産』 八人の著者による平成オムニバス。あまりおもしろくなかったから一頁よんで止めた人もいたが読み通したなかでブレイディみかこさんの「ロスジェネを救え?いや、救ってもらえ」はちょっと考えさせられたので触れておきたい。 みかこさんはイギ…

『絶版殺人事件』 ピエール・ヴェリー著 佐藤 絵里訳 図書館の新刊コーナーで立派なミステリー本を見つけ、雨のつれづれに読む。作者はフランス人、作品は第一回フランス冒険小説大賞を受賞とある三十年前の作品だ。 謎を解くのはフランス人の引退した古文書…

梅雨長し

『アジア海道紀行』 佐々木 幹郎著 県の図書館で未読の佐々木さんの本と久しぶりに出会った。この人の書きっぷりが好きなのだが最近はどうしておられるのかなかなか出会わない。この本とて発刊は古いといえば古い。 海道紀行というのは鑑真などの足跡を辿り…

青大将

『天野 忠随筆選』 山田 稔選 天野さんの既刊の随筆集をもとに山田さんが編まれた随筆集である。天野さんの詩集は先に読んだが特に心に残っのは老妻ものだ。これは随筆集であり詩集とはまた違った趣があるに違いない。 あとがきで山田さんは、「何でもないこ…

梅雨深し

『カササギ殺人事件 下』 アンソニー・ホロヴィッツ著 山田 蘭訳 三ヶ月ぶりの『カササギ殺人事件』である。正直に言って前編の話も面白味も概ね忘れてしまっており、気の抜けたサイダーでも飲む気分で読み始めた。ところが後編は前篇とはまるで違う話の展開…

七月

『「宿命」を生きる若者たち』 土井 隆義著 香港では若者が中心になり激しい政治批判が起こった。比べて日本にはなんの問題もないように静かである。日本は豊かなのか、恵まれているのか、若者に何の不満もないのか。そんなことはないはずだ。一人当たり購買…

トマト

三ヶ月にいっぺんの知人たちとの食事会に出る。以前一緒に公務に携わった仲間でみんな喜寿前後の歳だ。昼間だからアルコールが入るわけではなく食事をしてお茶をして近況を話し合うだけである。体調を崩していたから二年ほど欠席して前回から久しぶりに顔を…

梅雨晴れ間

『父を焼く』 上野英信と筑豊 上野 朱著 戦後、筑豊の地で地域に根付いた文化活動に力を尽くした上野英信氏のご子息による回想譚である。谷川雁や森崎和江の名前は知っていたが正直に言って上野氏のことはよく知らなかった。今回これを読んで並々ならぬ信念…

梅雨空

『浄瑠璃を読もう』 橋本 治著 橋本さんのやさしく教えてくださる古典シリーズの一冊である。春の旅で淡路島で人形浄瑠璃を見てから気になっていた「文楽」という日本の古典芸能、この際勉強しようと読み始めたのだがなかなか進まない。やっと三大名作と言わ…

蝸牛

『誘拐』 本田 靖春著 Tが古本屋から仕入れてきた一冊で一時代前のドキュメンタリーの名作らしい。(文藝春秋読者賞・講談社出版文化賞)若い人成らずとも今の人は知らないだろうが「吉展ちゃん」という名前を当方などはしっかり覚えている。昭和37年、先…

草むしり

ピンクのプルオーバーを縫う 歳を重ねたら赤い色を着たほうがいいと言うが全くそのとおりだ。白髪頭で黒っぽいものを着た日には気が滅入ってしかたがない。ピンクなんかと思っていたのにこのところ家着はピンクばかり。今着ているのは化学繊維だから夏向きに…

浮いてこい

『新訳 説教節』 伊藤 比呂美著 説経節に惚れた惚れたという伊藤さんの熱意に煽られて、説経節とはいかなるものやと手にしたこの本。「小栗判官」も「しんとく丸」も、みめ麗しき貴公子や深窓の姫君が思わぬ不幸に陥いるが、神仏の助けでめでたしめでたしと…

夏至

『消えた国 追われた人々』 東プロシアの旅 池内 紀著 Tが読んでいて面白そうだったから回してもらった一冊。読み応えのある話だった。かって「東プロシア」という国があったということも、その国の消滅に際して多くの人々が難民となったことも、また難民を…

植田

弱った足腰を鍛えるべくとか思ったより回復してきた体重をこれ以上増やさないためとか色々思って冬の終わり頃から歩くようにしている。ひと月前にはぼんやり歩いていてもと万歩計を付けることにしたのだが、計ってみてがっかり。思ったほどに歩けていない。…

川とんぼ

『最後の読書』 津野 海太郎著 津野さんの生年は1938年とあるから当方とはたった7歳しか違わない。「老人、老人」と言われると現実なのだが他人事みたい。あとがきに 鶴見さんの「最後の読書」ーそれをみちびきの杖に、それにすがってあたりを慢歩する…

茂り

『龍太語る』 飯田 龍太・飯田 秀實監修 この本は龍太さんの晩年の聞き書きを纏めたもので生涯にわたる思い出話である。読んでいると龍太さんの人となりがわかってくる。華奢な体躯には似合わず豪胆で気骨があるとか、もちろんそれは『雲母』をスパッと終刊…

梅雨入り

『東海道ふたり旅』 池内 紀著 「ふたり旅」のお相手とはどうやら「広重」らしい。副題に「道の文化史」とある。広重の「東海道五十三次」を行きつ戻りつしながら、当時の風俗・経済・文化などなどを紹介。例により語り口は歯切れのよい池内調で、知らず知ら…

郭公

「古代への旅」と名打って信州諏訪に出かける。諏訪へは昔初めての家族旅行(娘もまだ一緒だった)で出かけたことがあるが、今回は風光より古代史が中心で節約旅である。 一日目 辰野美術館 中央道を走って3時間(途中で休む)。最初の目的地は辰野美術館で…

更衣

興味のない人にとっては何ということもないが、このところシャグジ神について思いを巡らしている身にとっては、ちょっとした歓びであった。興味の対象が繋がることを、中沢さんは、遠く離れた地点で地層の連続面を見出した歓びにたとえて「構造の歓び」と言…

五月尽

昨日から何度もモズ君が子ども連れで里帰りだ。連れている子モズは一羽だけだがおそらく一番の甘えん坊にちがいない。飛び慣れた梅の枝を枝移りしながらまだ羽をばたつかせて餌をねだっている。さすがに親モズも知らんぷりといった様子だったが見てないとこ…

みどり

『悲しみは憶良に聞け』 中西 進著 令和騒動に便乗して読んだわけではない。先に人麻呂論を読んでから憶良のことが気に掛かっていたからで、中西さんの本にしたのも読みやすそうだと思ったためで他意はない。長々と言い訳めいたことであるが年号が変わったと…

夏の川

『暮らしの断片』 金井美恵子=文 金井久美子=絵 「暮らしの断片」とあるだけに暮らしのなかのこだわりについてつづた文章である。そこは金井さんらしくあとがきで、最近の女性向きメディアで流行語になっている「ていねいな暮らし」つまりすてきな暮らしを…