花の昼

九ヶ月ぶりの家族交歓

 昨日ひさしぶりにY一家の訪問。前回の訪問が去年の六月で、本当に久しぶり。考えてみたらコロナの第一波がやや下火になって以来で、盆も正月も来なかった。この春、孫達は大学と高校にそれぞれ進学、いつのまにかこちらの背丈を追い越し、けっこう一人前に気を遣うようになったのにも感心する。爺さんが60年も前の学生時代の話をしても根気よく聞いてくれている。あまりの昔話にこちらが気を遣って、「何年前の話よ」と混ぜっ返すくらいだ。

 それにしてもこれからの若い人は大変だと思う。日本だけに限れば国力の衰えが否めないし、地球的には環境問題もある。トシヨリとしては、もはやその力に期待するしかない。テレビで上野千鶴子さんが「どうしてこんな世の中にしたと若い人に言われないためにも頑張っている」といっておられたが、私なんぞにそんなことを言う力はない。慎ましく生きて迷惑をかけないようにするくらいだ。

 

 木蓮が満開になったと思ったらもう散って、今は我が家の桜も満開。あれよあれよと思う間に春は進んでいく。

 

 

 

 

          花の昼博物館のがらんどう

 

 

 

 

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うちの桜

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Yがお花のお稽古で使った椿を挿し芽したもの。移植して何年ぶりかで何輪か咲いた。

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初つばめ

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散歩道の桜

 

春の庭

『民族衣装を着なかったアイヌ』 瀧口 夕美著

 編集工房「SURE」から書籍案内が届いた。てっきりTへの案内だと思ったのだが、宛先はH殿。珍しいこともあるものだと仔細を本人に訊ねたら、この本を出してきた。何年か前にアイヌのことを調べていて購入したらしい。

 著者は「SURE」の編集者で、後で分かったことだが黒川創氏夫人である。この本は、アイヌの出自を持つ著者が、自らのもやもやした気持ちを突き詰めるために書かれたもののようだ。複数の少数民族の人々に話を聞き、その歴史や今の暮らしぶりを、どちらかと言えば素朴な文章でまとめてある。四章からなり、初めはアイヌ出身の母の話、二章目はウイルタ出身の女性の話、(ウイルタはかってサハリンに居住していた少数民族)三章目はサハリンに残りつづけロシア人として暮らす日本人と朝鮮人の親を持つ女性たち。そして最後の章はもう一度「日本化した暮らしの中でアイヌとして生きた」人の話。

 女性たちの話は、事実を淡々と語っていて、大部分は悲しみとか怒りとかに遠い。筆者もまたそれぞれの人の歴史を書きながら、自分に繋がる大きな流れをしっかりと受け止めたのではないかと、そんな気がした。

  ウイルタという人々のことは以前読んだ梯さんの『サガレン』で初めて知ったが、日本人扱いで青紙(赤紙でない)招集され、スパイ活動などをさせられたらしい。そのせいで戦後にシベリアに抑留されたにもかかわらず、軍人恩給が支給されないなど理不尽な扱いを受けたようだ。そもそもウイルタという人々がかって同胞であったということをどれだけの人が知っているだろうか。

 サハリンからの帰国を選ばずにロシア人として生きてきた女性の日本文化への郷愁のようなものにも心打たれた。帰国をしなかった自らの選択に間違いはなかったとするものの、若き日に読んだ日本文学への思いや子どもの頃に慣れ親しんだ食生活は、簡単に忘れることは出来ないものなのであろう。彼女らが元気なうちに気楽に行き来出来る環境が整えたらよかったのにと思うばかりである。

 

 

 

 春たけなわとなって、我が家の庭もとりどりの花が咲き始めた。数えてみたら二十種類もある。モズもどうやら無事のようでまずまずひと安心。

 

 

 

 

 

         とりどりや今を盛りの春の庭

 

 

 

 

 

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芝桜

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水仙

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高速道路法面の山桜

お水取り

「奈良東大寺修二会」の録画を見る

 先日NHK東大寺の「お水取り」最終日の中継があった。お水取りは聖武天皇の時代に始められて1260年間、一度も欠かせれたことがないという行事で、コロナ禍の今年でも細心の注意を凝らして実施され、それをテレビで中継するというのである。夜半すぎにかかる長い中継なので録画にして何回かに区切ってH殿と見た。

 途中にアナウンサーやゲストによる中断はあったが人工的な採光は一切なく、難しい行法やお経などには字幕が入り大きな流れは理解できた。

 以前から気になっていた過去帳(青衣の女人)の読み上げ場面はなかったので、後で調べたらこれは最終日にはないらしい。YouTubeにそこのところだけ挙がっているので、気になる方はご覧になるとよいと思う。辺りを伺うようにしてから低い声で唱えられている。

 流れを見て感じたのは音と火の競演だと思ったことで、これは後で読んだ下記の本によれば、火や音で、「音をたてて神霊を呼び醒まし、地を踏みしめ、水や火で浄化するという呪術的行為」らしい。

 仏教的行事のはずなのに神仏混淆で様々な神が勧請され山伏姿の方も垣間見えた。

 驚いたのは「菅首相」の名前も呼び上げられたことで、これは修二会の根本的祈願に「国家安寧」があるためだということだ。

 基本的には修二会というのは修正会などと同じで仏に罪過を懺悔して個々人の幸せや国家の安寧、疫病退散、五穀成就を祈るものだということがわかった。今は少なくなったというがかって奥三河地方などで行われていた「花祭り」と同じような意味をもつものらしい。さまざまな民間の予祝行事が廃れていく中で1260年という伝統を画面越しながら見られたのは貴重であった。

 

 

 

 

     水取りや氷の僧の沓の音   芭蕉

 

 

 

芭蕉の句として、「籠もりの僧」と「氷の僧」と二つの句が伝わるが私見は「氷」がよいと思う。

これはH殿の本だが、この中に「修正会」という篇がある。

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木蓮と紫木蓮(これは我が家のもの) 

花韮

「多治見モザイクタイルミュージアム」に行く」

 久しぶりに出かける。目的地は「多治見モザイクタイルミュージアム」である。ここの建物が藤森照信さんの設計でとてもユニークだと聞いていたので一度見たいと思っていた。藤森さんの建物は諏訪の守矢神官資料館でも拝見したが、土俗的でユーモラスで力強い。写真を見ていただければわかるが、今回も巨大なもぐらの土盛りのようでもあり、木々の生えた小山のようでもあり。小さな煙突があるところを見るとお話の主人公が住んでいそうにも思える不思議な景観だ。これで中は四階まであり最上階は一部屋根が抜けて青空が見える。タイルの部屋なので濡れても構わないという趣向らしい。展示品はこの地方のタイル生産と使用の歴史。

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壁(土壁かな?)にはタイルの破片や陶器の破片などが埋め込んである。

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最上階の青空へ筒抜けの様子

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昔懐かしいお風呂やさんのタイル絵

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ミュージアム・ショップでは何か欲しくなる私。迷ったけれど結局買ったタイルの鍋敷き。

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お昼は久しぶりに美味しい蕎麦をいただいて帰り道に「ぎふ清流里山公園」による。疫病退散のアマビエの藁人形があり。草花の苗と田舎のおかず味噌を買って帰宅。

 

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       花韮のちさき花らも影をもち

 

 

 

 

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うちの花韮がかなり咲きそろってきた。

 

雲雀

日航123便墜落 圧力隔壁説をくつがえす』 青山 透子著

 日航123便についての青山さんの本はこれで三冊目である。最初は目撃証言からの不信提示、次に遺体や遺物からの不信提示、そして今回さらにきっちりした新事実でもっての真相への肉薄である。

 その一つは外務省の公文書からあきらかになったことだが、墜落直後(二日後)に外務省では墜落が事故ではなく事件として扱われていたという事実である。これは当時のレーガン大統領から中曽根首相に宛てた見舞いの書簡への添え書きで、写しが掲載されているが外務省職員の手で「日航機墜落事件に関するレーガン大統領発中曽根総理あて見舞の書簡」とある。世間一般が事故だと思い右往左往している時に、すでに事件ということははっきりしていたのである。

 もう一つは『事故調査報告書別冊』に書かれた「異常外力着力点」という記述だ。「異常な外力が垂直尾翼中央部に着力したことにより、垂直尾翼が崩壊するに至ったと記されている。」にもかかわらず、ご丁寧にも圧力隔壁の破壊が垂直尾翼を崩壊させたという説を補強するために実験までされ、その結果も矛盾だらけである。

 もはや垂直尾翼中央部に何かが当たりそれで尾翼やその周辺部分が崩壊し機体は制御できなくなったという真実は覆そうもない。当たったものは何か。そこで青山さんは最初の多くの目撃証言に戻る。すなわち機体に並走して飛んでいたというオレンジ色の物体。あるいは二機の自衛隊機。前日新聞記事にあった国産ミサイルの実験を開始するという記事。口絵にはオレンジ色をした軍装備品が掲載されている。

 青山さんならずとも私たちは真実を知りたいと思う。もし重大な過失により多くの命が失われたのであったら、真実を明らかにして詫びるのがせめてもの償いではないか。大事なことをうやむやにごまかしてしまうというこの国の体質、これが一番恐ろしい。

 アメリカはこの件で日本政府に大きな貸しを作った。それがその後の日米関係にどういう影響を与えたのかも私たちは見つめていかなければと思う。

日航123便墜落 圧力隔壁説をくつがえす

日航123便墜落 圧力隔壁説をくつがえす

  • 作者:青山透子
  • 発売日: 2020/07/21
  • メディア: 単行本

 

 山茶花が終わったからとH殿が張り切って剪定と枝透かしをしていたら、モズの巣がでてきた。悪いことをしたなあと言ってすぐ止めたのだが、どうなるかしらん。雛のような声もするが。気の揉めることだ。

 

 

 

 

       終業のチャイムなりしか夕雲雀

 

 

川べりに咲いていた花

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春の蝶

『孤塁』  吉田 千亜著

副題に「双葉郡消防士たちの3・11」とあるとおり、東北大震災とその後の原発事故に翻弄され、孤軍奮闘を余儀なくされた双葉郡消防士125名の記録である。

 話はまず大地震直後から始まる。家屋の倒壊などで怪我をした人々を救助しながら予想外の大津波に避難を呼びかけて走り回る彼等に、原発の異常が伝わる。地震発生後一時間もたたぬ時刻であり、さらに追い打ちをかけるように原発が制御不能になったという連絡が入る。線量計を持ち、防護服に身を包み、今度は放射能汚染からの避難を呼びかける。放射能汚染のため各地からの緊急援助隊も入ってこずに全くの孤立無援での活動である。鳴りっぱなしの線量計とともに、休憩も取れず走り回る彼等の目の前で一号機が爆発し、三号機も爆発する。あろうことか原発構内での給水活動や火災対応も要請される。ひとりひとりが使命と命を天秤にかけるような瀬戸際に追い込まれたのだ。

 あの時、私たちはヘリコプターが空から海水をかけるのや、「まだメルトダウンはしていないはず」という安易な解説を空頼みにしてテレビを見ていたのだと今つくづく思い出す。

 十年が経っても原発事故の問題は大きな進捗はないという。増え続ける汚染水すらどうするか結論はでていないようだ。私にできることはせめてあの惨事を忘れないことぐらいしかない。この本を読んだこともそのひとつになればと思うだけだ。尚、本書は本年度の本田靖春ノンフィクション賞を受賞した。

 

 

 

 

       みじか世を遊びつくせや春の蝶

 

 

 

 

孤塁 双葉郡消防士たちの3.11

孤塁 双葉郡消防士たちの3.11

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つくつくし

『イトウの恋』 中島 京子著

 机の上にずっと積読の一冊に、『日本奥地紀行』がある。それもいいかげんに読み終わろうと思っているせいで、一番上で埃をかぶっている。。

 この話がその『日本奥地紀行』に材を得たものだと知って、読んでみることにしたのはそのせいだ。イトウとはイザベラ・バードの通訳を勤めた伊藤鶴吉をモデルにしてはいるが、お話は全くのフィクションだ。第一伊藤は当時まだ十八歳であり、一方イザベラは四十七歳。恋など想像もできぬ年齢差である。加えてイザベラには伊藤に対してあまり好意的でない。それでも中島さんは見事なお話に仕立てあげられた。その作家力に驚くしかない。 イトウが残した手記を縦軸に、手記捜しをする歴史教師とイトウの子孫の触れ合いを横軸に、もつれた糸を解きほぐしていくような面白さがあった。

イトウの恋 (講談社文庫)

イトウの恋 (講談社文庫)

日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)

日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)

 

 気温が上がってどんどん春めいてきた。レンギョウが咲き、紅梅が咲き、黄スイセンが咲き始めた。田舎道を歩くくらいは自由だからと出来るだけ散歩をしている。

 

 

 

 

     せこせこと鳩の夫婦やつくつくし

 

 

 

 

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