冬蝶

11月も今日で終わり今年のカレンダーもあと一枚になった。年末らしく家事を張り切ろうというわけではないが、冬用に胸当てエプロンを縫う。フリーハンドで布地に直に線を引いて裁っただけ。ちょっと大胆な柄にしただけ付けるのが楽しいかなと自己満足。

 久しぶりに本屋に行った。最近は専ら図書館頼みだから、本当に久しぶり。次の毛糸を注文するのだが廃番が多い。これは参考にする本が古いと思ったので新しい本が欲しいと思ったわけ。別の本もたまには何か買おうと思ったのだが、まず図書館を検索してからとやっぱり止める。結局買ったのは編み物の本と猫さんの表紙のノートだけ。出版不況に協力しなくてゴメンナサイ。我が家の膨大な本をこれ以上増やさないための私だけの努力です。本は増やさない努力をしているのにまたまた編み物をして着るものを増やすというのは矛盾しているが、そこはそこ価値評価のちがい。だから他人ことは言わない。

 

 

 

 

     冬蝶にひなた広げてやりにけり

 

 

 

 

 

 

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小春日

「北斗の人」 司馬 遼太郎著

 家の古本屋に出す予定のダンボール箱の中から拾い出してくる。久しぶりの司馬さんの小説でかなり面白かった。「北斗の人」とは北辰一刀流をあみだした幕末の実在の人物、千葉周作のことである。剣術を合理的精神で追求し「近代的な体育力学の場で新しい体系をひらいた人物」だという。つまり今の剣道の装備も鍛錬の方法もすべてこの人から始まったのだそうだ。その周作が神田お玉ヶ池に道場を開くまでのいわばこれは青春物語である。

 奥州のかなり貧しい郷士とも百姓ともつかぬ家の生まれだったが、子供の頃から俊敏で千匹くらいの蜂を棒きれ一本で退治してしまったという。この才に感服した村の庄屋の支援で江戸に出るのだが貧乏も貧乏、なかなか思うように剣術の修行もできぬ有様。しかしそこは天賦の才、紆余曲折を経ながら並ぶものもない天下の大武芸者になるのである。司馬さんの惚れ込む合理的で明快、爽やかで前向きな人物である。何となく坂本龍馬にも通じる人間性を感じたのだが、龍馬は周作の弟(定吉)の道場に通い、その娘のさなさんは龍馬を慕って未婚で通したのは有名だ。周作の道場に通った人物としては清河八郎などがいるらしいが当方としては「赤胴鈴之助」。かなり好きな漫画だったから歌なども覚えている懐かしい漫画の主人公だ。多分ラジオで聞いていたような気がするが、その番組の周作の娘が吉永小百合さんだったのは後になって知った。吉永さんは同時代なので彼女も小学生だったにちがいない。

 何だか昔話になってしまったが十分楽しんだからもう古本屋行きとしようか。

 

 

 

 

     小春日やゆつくりと押す乳母車

 

 

 

 

北斗の人 (講談社文庫)

北斗の人 (講談社文庫)

 

毛糸編む

 九月初めから編み始めたアラン模様のチュニックベストが出来た。若草色で本人としてはまあまあ気に入っている。長いこと自己流で編んできて今回つくづくわかったのは編み手が緩いということ。指定された糸と針の太さで編み始めたのでゲージも確かめなかったせいか糸が足りなくなって気付いた。慌てて再注文して同じ色番とロットの糸があったのでよかったが、どうしようかと思ったことも。そういえば前にカーデガンを編んだ時も出来上がりが大きくなったのはそのせいに違いない。ベストなら袖はないので少し大きいぐらいはいいかと、いい加減なものだ。

 編み物は当方の精神安定剤なのでこれからの長い冬の間にもうひとつぐらい編みたいと思っている。いい加減の腕なので他人のものは編めず専ら自分用である。

 

 

 

 

     一語づつ物書くに似て毛糸編む

 

 

 

 

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散紅葉(ちりもみぢ)

「うたかたの日々」  諏訪 哲史著

 朝日新聞の名古屋版に長く続いた「スワ氏文集」をまとめたものである。これは第二弾で2012年以降のもの。他に別の新聞などに掲載されたエッセイも含んでいる。

 さて、「スワ氏文集」といえば一番愉快なのはコテコテ名古屋弁の婆さんの会話である。読めばいつもあの金さん銀さんを彷彿とさせるのだが、最近はさすがここまで純粋(?)な名古屋弁は河村名古屋市長くらいだなあとしみじみ。こんなに忠実に名古屋弁を再現できるとは諏訪さんは随分「言葉」に鋭敏な人だ。近頃のわけのわからない若者の会話を揶揄した「イミフの三人」なんて全く当方などははイミフなのだもの。

 自虐ねたも面白い。憶良の貧窮問答歌のパロディ「平成貧窮悶倒歌」など、なかなかだ。パロディといえば般若心経のリズムで唱える「般若腹イタ心経」もある。真面目なお坊さんには叱られそうな内容だが。

 名古屋周辺人としては地元ねたもまた楽しい。そうそうと相槌を打つこと数多。名鉄の車掌時代に諏訪さんが遭遇したというニセ車掌さんなんて本当かいなと大笑い。

 否、笑い話だけではありません。後半の権力批判。世相のせいか、諏訪さんの体調のせいか前半とはがらっと変わった重い話題ばかり。でも諧謔性をなくさないのが諏訪さん。「諷刺劇」など、この国のトップに立った祖父と孫との架空対話だがあまりにリアルで怖くて笑えぬ。

 諏訪さんの面白さは本当は誰もがちらっと思っているのだが、わざわざ人前では言わなかったり言えなかったりすることをあからさまにしてくれることだろか。こんな諏訪さんが実は子供のころは吃音で悩み、今は躁鬱病で苦労しておられるという。この底抜けの面白さにはそういう背景もあるのだとしみじみ感じいった次第だ。

 

 

 

 

     ささへたる姉の温もり散紅葉

 

 

 

 

うたかたの日々

うたかたの日々

雪ばんば

 今日は二十四節気の一つ「小雪」。「寒さが進み、雪が降り始めるころ」というが今年はまさに暦どおり。一昨日の冷え込みで伊吹山奥美濃の山々もいっぺんに白くなった。昨日は岐阜でも初氷を観測したとテレビのニュース。例年より早い冬の訪れはトシヨリには全くこたえる。日差しがあればともかく日差しもない今日のような日は終日閉じこもっているしかない。

 久しぶりにBSシネマの映画を見た。「しあわせの隠れ場所」2009年のアメリカ映画である。貧しく厳しい境遇からNFLの大選手になったという実在の人物(マイケル・オアー)をモデルした映画である。見終わって暖かいものが残った。 

 

 

 

 

 

     漂ふとみれば飛びをり雪ばんば

 

 

 

 

 

しあわせの隠れ場所 [DVD]

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冬の駅

「知らなかったぼくらの戦争」 アーサー・ビナード

 戦後七十年の一昨年、英語にはない「戦後」という意味を考えてみたいとビナードさんが始めたインタビュー。自身のラジオ番組で紹介したものを書籍化した本である。短いインタビューだが様々な戦争体験が語られている。掲載のビナードさんとのツーショットからいくらもたたない内に亡くなっている方が多く、その点でも貴重な最後の証言の数々だ。中でも初めて知ったのは、米軍が原爆投下後も終戦日前日までファットマン型(長崎県型原爆)の投下実験を繰り返したという事実。これはもう日本との勝ち負けとは無関係な戦後世界で主導権を持つためだけの実験で、この実験でも当然ながら何人も犠牲になった。この事実を明らかにしたのは愛知県の社会科の先生(金子力さん)で、身近にそういう立派な方がおられたのは驚きだった。その他にも奇襲攻撃といわれる真珠湾攻撃もそう見せかけたアメリカのプロパガンダで、実際はすべてお見通しであって航空母艦などは避難していたなど、そんなことも初耳だった。ビナードさんはオバマさんの広島訪問にも厳しい目を向けていて、あの日オバマさんは慰霊碑の前で演説をしたのだが、その場にも核の発射司令装置一式(核のフットボール)を持ちこんでいたそうだ。「核のフットボール」などという言葉は知らなかったが、大統領が常に携帯しているとは聞いていた。しかし、日本のマスコミはその矛盾に一言も触れず、ただ被曝者を抱きしめた一瞬だけを美しい和解のように報道したのだ。ビナードさんは1967年生まれのアメリカ人。だが、その人間的な眼差しと深い考えにただただ教えられることばかりだ。

 

 H殿の大学時代のサークルの仲間が亡くなった。お悔やみに来られる同じ仲間を駅まで迎えにいったのだが、どちらもあまりの風貌の変化になかなかわからなかったという悲しさ。ああ、歳月は残酷。

 

 

 

 

     歳月の変へし面影冬の駅

 

 

 

  

知らなかった、ぼくらの戦争

知らなかった、ぼくらの戦争

 

暮早し

 H殿がボランティア先で「ハヤトウリ」と言う野菜を頂いてきた。洋梨に似たずんぐりとした瓜である。薩摩地方で作られるので「ハヤトウリ」というらしい。半分にして皮をむき試食してみる。胡瓜よりは少し堅いが同じような歯ざわりで味はやや青臭い。検索したら漬物やサラダにとあるので、とりあえず浅漬にしてみる。H殿の農園ボランティアではいつも野菜がおまけに付く。出荷できないB級品やら同じボランティア仲間の生産物だったりといろいろだが、今日は他にもルッコラブロッコリーも貰ってきた。ルッコラも初めての野菜で、噛んでみるとぴりっと辛い。これも検索したらサラダがいいらしい。

 寒くなってきたから農園ボランティアもなかなか大変だと思うのだが週三回、熱心だ。昔取った杵柄でちょっとしたアルバイトも頼まれ、元気なのはありがたい。老人臭くなってきた女房を尻目に「それほど年取ったとは思えん」と嘯いてござる。

 

 

 

 

     横綱の勝ち見届けむ暮早し

 

 

 

 

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